陥没乳頭は女性にとってデリケートな悩みです。将来ご自分の赤ちゃんに母乳で育てようと思っても、赤ちゃんが乳首が咥えられないため上手に母乳が与えることできず、授乳障害を引き起こす可能性があります。
また、機能的な問題だけではなく乳房・乳輪・乳頭のバランスが悪いため外見上の問題もあります。機能性、そして整容性の二つの側面からも多くの女性にとっては悩ましい病気です。
ある報告では陥没乳頭で悩んでいる女性は人口の3〜10%いるというデータがあります。それほど稀ではないとことですが、乳頭・乳首が内側に陥凹しているため様々な問題が起こります。
今回は多くの女性が悩んでいる陥没乳頭・陥没乳首の治療法と過去に他院で行なったが再発してしまったケース:他院修正術の症例などを紹介しながら解説していきたいと思います。
陥没乳頭とその重症度分類について
乳頭が内側に凹んでしまっていたり、平坦な状態を陥没乳頭といいます。陥没乳頭の多くは先天性(生まれつき)です。
これは乳房が発達する過程において、乳腺と乳管の発育バランス不全によって起こり、乳管が乳頭・乳首までに到達しないことが原因と考えられています。
分かりやすくいえば乳管が短いということです。
陥没乳頭は大きく分けて、真性と仮性の2種類がありますが、その程度によって分けたのが陥没乳頭Grade分類となります。陥没乳頭は以下のGradeⅠ〜Ⅲの重症度に分類されます。
仮性陥没乳頭・・・GradeⅠ, Ⅱ
真性陥没乳頭・・・GradeⅢ
- Grade Ⅰ
- 引っ込んでいるが、刺激や指などで乳頭部分を引き出すことが容易にできる状態。
- Grade Ⅱ
- Grade Ⅰのように引きだすことが可能だが、すぐに元の陥没した状態に戻ってしまう。
- Grade Ⅲ
- 乳頭部分は完全に落ち込んで陥凹(凹んだ)を形成していて、刺激や指などで引き出すことは極めて困難な状態。
上記の陥没乳頭重症度分類:Grade Ⅱ、Ⅲが手術による治療が必要となります。
このようなお悩みの方が診察に来られます
- 生まれつき乳頭が出ていない
- 乳頭が完全に陥凹している
- 乳頭が突出しておらず平坦
- 右or左どちらか片側だけの場合
- 右も左も両側の場合
- 授乳後ができなかった
- 授乳後に陥没した
- 乳頭に炎症が起こった
- 一度手術したが再発してしまった
陥没乳頭はそれ自体では特に症状を認めません。ですから、大きなトラブルや問題などは、すぐに現れません。
生まれつきの方などでは、とくに意識せずに生活を送っており、結婚適齢期や近い将来における授乳の可能性を考慮したり、整容的(見た目)な問題などからクリニックに受診されます。
陥没乳首のデメリット・主なリスク
陥没乳頭のデメリットは大きく分けて以下の二つがあります。
機能障害
機能障害とは、授乳ができない状態を言います。真性陥没乳頭(重症度分類:GradeⅢ)の場合には授乳ができません。
仮性陥没乳頭(GradeⅠ・Ⅱ)は授乳はできますが、通常はの乳頭部分が凹んでいるため、その凹んでいる部分に汚れがたまると不衛生な状態となります。そして、その汚れなどに細菌(常在菌)が増殖して感染を引き起こします。
感染を起こすと局所だけではなく、ひどいと乳腺炎という状態になることがあります。乳腺炎とは、乳腺が炎症を起こす病気です。乳房に激しい痛みを伴い、状況によっては発熱し、日常生活に支障をきたす場合もあります。
- 膿がたまって乳房内に膿瘍(のうよう)などができた場合には、切開して排膿(はいのう:膿を出す)する処置が必要になります。
- 乳腺と乳管は一体となった構造をしています(下図参照)。乳腺炎を起こすと、周囲の乳管まで炎症がひろがります。
- 炎症した乳管はのちに硬くなります。硬くなった乳管がさらに乳頭を引き込むので、陥没乳頭の状態がひどくなったりします。
乳頭・乳腺・乳管の関係図
見た目の問題
理想の乳輪・乳頭のバランスとは、理想の乳輪・乳頭の大きさは下記のようなサイズとなります。
乳頭の大きさが 1〜1.5cm、高さ7〜10mmに対して、乳頭中心から乳輪外側までの距離が等しい大きさです。
陥没乳頭は高さが0もしくは、マイナスの状態です。乳房、乳輪、乳頭のバランスは崩れますので、整容的(見た目)には問題がある状態となります。
陥没乳頭を手術以外で治す方法
ホフマンテクニック
ホフマンテクニックとは?
ブルックスホフマン法と呼ばれているマッサージ法です。仮性陥没乳頭(GradeⅠ・Ⅱ)の方が適応となります。乳頭・乳首の根本である基部の組織を柔らかくすることによって、乳頭が突出してしやすくする=クセづけをしていく方法です。
やり方としては、突出した乳頭・乳首の根元(乳頭基部)をはさみこみ、指の腹で強めに押して刺激を加えて引き出して離す。これを入浴中や入浴後などに乳首をつまむ位置(縦に垂直、真横、斜め45度)を変えながら行います。
マッサージなので、日々生活の中で取り入れていただくことが可能ですが、やり過ぎには十分な注意が必要です。
吸引器
インターネットで探せば安価で購入できるものです。上記のホフマンテクニックに補助的にも行える方法です。
ですが、仮性陥没乳頭(GradeⅠ・Ⅱ)の方でもやり過ぎると乳頭や乳管を傷つけてしまい炎症が起きたりします。
炎症が起こると乳管が硬くなるので、さらに引き込みが強くなり、陥没乳頭が悪化する場合があります。
ボディピアス
ボディピアスを乳頭に行うことで、突出した状態をピアスを入れている間はキープできます。
ピアスを外すと元に戻ることがあるので、ご注意ください。
胸が陥没して乳首を出す陥没乳頭の手術治療について
陥没乳頭手術では、形成外科や乳腺外科などで行われるのが一般的です。
機能性と整容的(見た目)な問題を解決するうえでは、美容外科も扱っている形成外科に依頼することが望ましいでしょう。
陥没乳頭手術の現状
陥没乳頭手術では大きく分けて2つあり、乳管を温存するやり方とそうではないやり方があります。温存というのは授乳機能を残すことを意味します。
乳管をなるべく傷つけないように行う方法です。現在では多くの施設で乳管を温存する手術が行われていると思われますが、あくまでも推測であるため正確なことはわかっておりません。
また、乳頭に対してのアプローチの仕方もさまざまです。乳頭周囲にZ形成と呼ばれる方法で皮膚を切開するやり方や乳頭の直上にメスを入れて乳頭を半分に割って行うやり方など、これらは実際手術を行うドクターの判断で行われます。
横浜のエムズクリニックにおける陥没乳頭手術(小切開法)
M’s Clinicでは、乳管を温存する方法で行っています。術後の授乳機能が保たれていることも実証済みです。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
手術後の母乳も認める【陥没乳頭】ーキズが目立たないエムズ小切開法で母乳育児が可能に
当院で行う陥没乳頭手術は、乳管を傷つけないで行うことは当然ながら、さらに、乳頭自体や乳頭周囲にも傷が残らない工夫を行っています。
術後の状態
陥没乳頭の他院修正術について
過去に一度でも手術した乳頭を再手術で突出した状態にするのは、初回の手術に比べ、非常に難易度が高くなります。
初回の場合、当院では小切開法を行うのですが、手術が2回目以降の他院修正の場合には、原則的に小切開法は行いません。下図のような方法を用いて修正術を行います。
小切開法よりも多く切開して行うのですが、傷跡は最終的には乳頭基部(乳首の根元)におさまるので、他の方法よりも目立つことがありません。
エムズクリニックによる他院修正の事例・症例写真
実際の手術例について、詳しくは以下の症例もご覧ください。
陥没乳頭手術の【他院修正】について|症例①
陥没乳頭手術の【他院修正】について|症例②
陥没乳頭・陥没乳首を治す手術 まとめ
- 陥没乳頭の状況とリスクを理解して、手術される場合は専門の医師による早めのカウンセリングをおすすめします。
- 再手術は難易度が高くなるので、初回手術は慎重に選び、再手術の場合は他院修正例をご覧ください。
陥没乳頭・陥没乳首のQ&A
仮性陥没乳首や乳首が凹んでいる状態(平坦・無いように見える)は、吸引器やセルフマッサージで治せますか?
陥没した乳頭を容易に指や刺激などで引っ張り出せる仮性陥没乳頭(Grade Ⅰ、Ⅱ)の方には、有効な場合があります。一方で、真性陥没乳頭(GradeⅢ)の方にはお勧めしません。無理やり乳頭を引っ張り出したり、吸引器などを使用して強制的な力が乳頭に加わると、乳頭がダメージを受けます。乳頭はデリケートな部位であるため簡単に傷ができます。傷から乳管をつたって細菌が入り込み増殖すると、乳腺炎を引き起こします。周囲の乳管に炎症が及ぶとその影響で乳管が硬くなり、最終的には縮みます。縮んだ乳管は乳頭を引き込みます。その結果、陥没乳頭が悪化したりします。マッサージをする場合には、やり過ぎには十分気をつけて行う必要があります。
妊娠中の陥没乳頭のケアはいつから始めると良いですか?
陥没した乳首の場合、妊娠前からのケアが大事になります。手術をするなら妊娠前でないと手術できませんので、事前に医師にご相談ください。
授乳時に痛いのですが、乳腺炎の可能性はありますか?
その可能性がありますので、医師の診察をおすすめします。授乳時に痛みを伴うのは、背景に陥没乳頭の可能性があります。陥没乳頭だと乳腺炎になる可能性もありますので、早めの治療が必要となります。
陥没乳頭の手術に生命保険は使えますか?
社会保険の適用は可能な保険適用手術ですが、生命保険については、ご自身が加入している保険会社の契約内容によります。そのため、ご契約の生命保険会社にお問い合わせください。