
「胸にしこりを感じたら、もしかして乳がんでは?」と不安になる女性は少なくありません。特に、30〜60代の女性はホルモンバランスの変化や乳腺の発達、加齢による乳房組織の変化が重なり、さまざまなしこりを感じやすい時期です。しこりには良性のものもあれば、注意が必要な病変もあります。
そこで今回の記事では、胸や乳首にできる「しこり」の種類やできる場所、考えられる原因や病気について、医療的な視点からわかりやすく解説します。また、しこりを見つけたときの正しい対処法や検査方法についても触れ、早期発見・早期治療で解決できるように、気になる症状がある方は、ぜひ参考にしてください。
胸のしこりの状態・できる場所

胸のしこりと一口にいっても、その「硬さ」「大きさ」「形」「動くかどうか」「痛みの有無」など、症状には個人差があります。以下のような違いが見られます。
しこりの特徴
- 硬さ:ゴリゴリと硬い/柔らかいゼリーのよう/弾力がある
- 大きさ:小豆大〜ピンポン玉大までさまざま
- 可動性:触ると動く/皮膚に張り付いて動かない
- 表面:なめらか/デコボコしている
- 痛みの有無:生理周期と関係して痛むことも
できる場所
- 乳房の内部(乳腺内)
- 乳輪の下
- 乳首(乳頭)の真下や側面
- 脇の下(リンパ節領域)
- 左右対称/片側のみ
しこりの位置と性質は、原因となる疾患の推定に役立ちます。たとえば、乳腺の奥にある硬いしこりは乳腺線維腺腫や乳がんの可能性があり、乳首の下にある柔らかいしこりは乳腺嚢胞や乳管拡張のこともあります。
乳房にしこりができる原因

胸にしこりができる原因には、主に以下のようなものがあります。
- ホルモンの影響:生理前後に乳腺が腫れやすく、しこりのように感じることがあります。
- 乳腺炎や感染:授乳中や免疫が落ちているときに乳腺が炎症を起こし、腫れや痛みを伴います。
- 良性腫瘍:乳腺線維腺腫や乳腺嚢胞など、がんではない腫瘍もあります。
- 脂肪腫や皮下腫瘍:乳腺以外の脂肪組織にできる腫瘍もあります。
- 悪性腫瘍(乳がん):硬くて動かないしこりは、乳がんの特徴のひとつです。
しこり=乳がんと即断するのではなく、他の可能性も含めて冷静に見極めることが大切です。
乳房のしこりで疑われる疾患

乳腺炎(にゅうせんえん)
乳腺炎とは?
乳腺に細菌が感染して炎症を起こす疾患です。特に授乳中の女性に多く見られます。
項目 |
内容 |
症状 |
熱をもったように赤く腫れる
痛みが強く、発熱を伴うことも
しこりのように硬くなる |
原因 |
母乳のうっ滞(詰まり)
乳頭の傷からの細菌侵入 |
対処法 |
授乳の仕方の見直し
抗生物質や鎮痛薬の処方
膿が溜まっている場合は切開して排膿することもあります |
乳腺線維腺腫(せんいせんしゅ)
乳腺線維腺腫とは?
若年〜30代女性に多く見られる良性の腫瘍で、乳腺の発達に関連するとされています。
項目 |
内容 |
症状 |
弾力のあるしこり
触るとコロコロ動く
通常は痛みを伴わない |
特徴 |
数センチ程度まで成長することがある
ホルモンの影響で大きくなることもある
多発することもあり |
対処法 |
経過観察で済むことが多い
サイズが大きい場合や心配な場合は手術で摘出することもあります |
乳腺嚢胞(のうほう)
乳腺嚢胞とは?
乳腺内に液体が溜まって袋状になる良性の病変です。生理周期によって大きさや痛みが変わることがあります。
項目 |
内容 |
症状 |
柔らかく、ゼリーのようなしこり
圧迫感や痛みが出ることがある
生理前に腫れて、後にひくことも |
対処法 |
基本的には良性で経過観察
痛みや不快感が強い場合は、針で中の液を抜く処置を行うこともあります |
乳がん
乳がんとは?
乳腺にできる悪性腫瘍で、女性のがんの中でも罹患率が高い疾患です。30代から増え始め、40〜50代でピークを迎えます。
項目 |
内容 |
症状 |
硬くて動かないしこり
乳頭からの分泌物(血液混じりなど)
皮膚のひきつれや凹み(えくぼ症状)
腋の下のリンパ節の腫れ |
特徴 |
初期は無症状のことも多い
早期発見なら治療成績が良好
家族歴やホルモン要因、生活習慣がリスク要因に |
対処法 |
マンモグラフィ・エコー・MRIなどで診断
手術、放射線、薬物療法などを組み合わせて治療 |
脂肪腫(しぼうしゅ)
脂肪腫とは?
脂肪組織にできる良性の腫瘍で、皮膚のすぐ下にできることが多く、乳房周辺にも現れることがあります。
項目 |
内容 |
症状 |
やわらかく、ぷにぷにしたしこり
ゆっくりと大きくなる傾向
基本的に痛みはないが、神経を圧迫すると痛むことも |
特徴 |
良性のため、急激な悪化や転移の心配は少ない
乳腺から発生するものではない |
対処法 |
小さければ経過観察
大きくなったり、見た目・触感が気になる場合は外科的に切除する |
その他の疾患

乳房や乳首にしこりを感じる原因は、上述の代表的なもの以外にも多岐にわたります。以下に、知っておくと役立つ疾患や症状を紹介します。
モンドール病とは?
乳房表面の皮膚直下にある静脈が炎症を起こし、しこりや痛みを伴う疾患です。乳房の表面に筋のような硬い線状のものが浮かび上がるのが特徴です。
項目 |
内容 |
原因 |
不明なことが多いが、打撲や激しい運動がきっかけになることも |
症状 |
触ると硬く、ヒリヒリした痛みがある |
対処法 |
自然に治癒することが多く、鎮痛剤や湿布で対応 |
乳管内乳頭腫とは?
乳管の中にできる良性腫瘍で、乳頭分泌物(血性など)の原因になることがあります。
項目 |
内容 |
症状 |
しこりというよりも、乳頭からの異常な分泌で気づくことが多い |
対処法 |
検査により腫瘍の位置や大きさを確認し、必要に応じて摘出 |
乳腺症とは?
生理周期に伴って乳腺が腫れ、痛みやしこりを感じることがあります。ホルモンの影響が強いとされ、閉経前の女性に多くみられます。
項目 |
内容 |
特徴 |
左右対称に症状が出ることが多い |
対処法 |
経過観察でよいが、しこりが気になる場合は検査を行い安心を得ることが大切 |
しこりを見つけた時の対処法・検査

胸にしこりを感じたときは、「がんかもしれない」と焦る気持ちになることもありますが、自己判断は禁物です。冷静に行動し、正しいステップを踏むことが重要です。
自分でできる確認ポイント
- 左右差をチェック:両側にあるか、片側だけか
- しこりの動き:触って動くか、固定されているか
- 生理周期との関連:生理前後で変化があるか
- 痛みの有無:押すと痛むか、常に痛むか
- 皮膚や乳頭の変化:くぼみ、ただれ、分泌物などがないか
上記のいずれかに当てはまり、不安を感じた場合は、早めの受診をおすすめします。
受診の目安・受診する診療科
- しこりが2週間以上続く
- 大きくなっているように感じる
- 乳頭から血性の分泌物が出る
- 皮膚がへこむ、赤くなる、ただれる
- 脇の下のリンパ節が腫れている
乳腺外科・婦人科は専門性が高く相談のきっかけとして有効で、形成外科・外科はしこりの性質によって適応されることもあります。
主な検査内容
検査名 |
特徴・役割 |
視触診 |
医師が目と手で確認し、しこりの硬さや動き、皮膚の変化をチェック |
超音波検査(エコー) |
音波で内部を可視化し、しこりの性質(液体か固体か)を判定 |
MRI検査 |
より詳細な情報を得るための検査で、必要に応じて行う |
マンモグラフィ |
乳房を板で挟んでX線撮影、石灰化や腫瘤の有無を確認 |
Dr.三沢
検査は痛みや負担の少ないものから順に行われ、状況によっては複数の検査を組み合わせて診断します。
施術事例【70代 男性/左胸の大きな膨らみ・しこりをMRI検査後に脂肪腫として摘出】

左胸の膨らみが大きくなるのに気づき、来院されました。

手術前にMRI検査を行い、患者さんの左胸に円形の腫瘤形成が認められました。
腫瘤(しゅりゅう)とは?
体内や皮膚の表面にできる「かたまり」や「しこり」のことを指します。原因はさまざまで、良性のものから悪性の腫瘍まで含まれます。腫瘤は、炎症や感染、脂肪のかたまり(脂肪腫)、液体がたまった袋(嚢胞)、がんなどによって生じることがあります。
大胸筋とは離れているので皮下にできた脂肪腫として、術後の傷跡が目立たないように乳輪下部をジグザグに切開して治療しました。
左胸の経過

腫瘍を押し出し、術後出血予防のためにドレーンを留置して終了です。
術後3か月もすると、ほぼ変形もなく、傷跡も目立ちません。
Dr.三沢
以下、胸にできた大きな脂肪腫のビフォア動画、症例動画もご覧ください。
BEFORE 動画
症例 動画
よくあるご質問
胸のしこりに気づいた時、良性と悪性の違いを教えてください。
良性のしこりは、境界がはっきりしていて動かせることが多く、急激な変化はあまり見られません。悪性(乳がん)のしこりは、硬くて動きにくく、形がいびつで、皮膚のひきつれや分泌物を伴うことがあります。ただし、見た目や触った感触だけで判断するのは難しいため、必ず医療機関での検査をおすすめします。
胸に突然大きなしこりができて痛い場合は何の症状でしょうか?
急に痛みを伴って大きくなったしこりは、乳腺炎や乳腺膿瘍、外傷による血腫などが考えられます。感染が原因となっている場合も多く、発熱や赤みを伴うことがあります。自己判断せず、できるだけ早く乳腺外来や形成外科を受診してください。
胸にしこりがあって痛くないのですが、乳がんの疑いはありますか?
はい、乳がんのしこりは痛みを伴わないことが一般的です。痛みがないからといって安心せず、しこりに気づいた場合は年齢にかかわらず医療機関で検査を受けることが大切です。特に40代以降の方は注意が必要です。
20代で胸が硬いのですが、何が原因でしょうか?
20代の方は乳腺が発達していて全体的に張りやすく、触ると「硬い」と感じることがあります。また、ホルモンバランスの変化による乳腺症や線維腺腫といった良性のしこりもよく見られます。不安がある場合は、乳腺外来で診てもらうと安心です。
男性ですが、胸のしこりは何科を受診すれば良いでしょうか?
男性でも乳腺にしこりができることがあり、乳腺外来や形成外科の受診が適しています。特に乳がんや女性ホルモンの影響による女性化乳房などが疑われる場合は、専門的な検査を受けることが重要です。
まとめ
- 胸や乳首にしこりを感じたとき、誰しも不安になります。しかし、しこりは良性であることが多く、慌てる必要はありません。大切なのは「様子を見よう」と自己判断で放置せず、必要な検査を受けてしっかりと診断を受けることです。
特に、以下のような方は受診を検討しましょう。
・30代以降で、初めてしこりを感じた
・過去に乳腺疾患歴がある
・しこりが急に大きくなった、または硬くなった
・分泌物や皮膚の変化を伴っている
- 乳がんは早期発見・早期治療で予後が大きく改善される病気です。痛みがなくても、「念のため」の受診がご自身の安心にもつながります。
胸のしこりは、多くの場合、命に関わらない良性の変化かもしれませんが、稀に命に関わる重大なサインであることも否定できません。だからこそ、「胸のしこりができたら診察を受けて治療したい」と感じることは、未来の自分を守るための大切な一歩です。