
陥没乳頭とは、乳首(乳頭)が内側に引き込まれて出てこない状態のことを指します。
一見、見た目の問題だけのように思われがちですが、実は授乳への支障や衛生面のトラブル、さらには心理的なコンプレックスにつながることもあります。
特に「軽度(仮性)」の陥没乳頭は、指でつまむと乳頭が外に出るタイプで、「重度(真性)」に比べると症状が軽く見えるため、「このくらいなら治療しなくてもいいのでは?」と考える女性も多いです。
しかし、軽度でも放置することで再びへこんだり、授乳時にトラブルを起こしたり、見た目の悩みを抱えたまま生活するケースも少なくありません。
軽度(仮性)の陥没乳頭であっても、手術によってしっかり治すことで衛生面・機能面・見た目すべてを改善できるのです。
ここでは、軽度の陥没乳頭の特徴から、自然治癒の可能性、自宅ケア、そして手術による根本改善まで、段階的に詳しく解説していきます。
軽度・仮性の陥没乳頭の状態/授乳について

軽度(仮性)の陥没乳頭とは?
乳頭の内部にある乳管(母乳の通り道)や線維がやや短く、皮膚に引き込まれている状態を指します。
見た目はへこんでいますが、指で軽く押す・吸引するなどの刺激によって外に出るのが特徴です。
ただし、日常生活の中では常にへこんでいるため、以下のようなトラブルを引き起こすことがあります。
- 凹んだ部分に皮脂や角質がたまりやすい
- 乳首が清潔に保ちにくく、白いカス(乳垢)や臭いが発生しやすい
- 汚れが原因で炎症や細菌感染(乳頭炎)を起こすことがある
軽度の陥没乳頭で授乳する場合
赤ちゃんが乳首をうまくくわえられず、母乳が出にくくなることもあります。
軽度であっても、繰り返す炎症や痛みが授乳を妨げ、母乳育児を断念せざるを得ないケースもあります。
見た目の悩みだけでなく、将来の授乳・衛生・健康に関わる問題がある点を考えると、「軽度だから放置して良い」というわけではありません。
思春期で軽度の場合、成長期で自然治癒することもある?

思春期(10〜20歳前後)は、女性ホルモンの分泌により乳腺や乳頭が発達する時期です。
そのため、思春期で軽度の陥没乳頭を指摘された場合、成長とともに自然に治るケースもあります。
乳管が伸び、乳頭が皮膚の外に押し出されてくると、徐々に形が整っていくことがあるのです。
ただし、以下のような場合は自然治癒が難しい傾向があります。
- 20歳を過ぎても形が変わらない
- つまんでもすぐ戻る(再陥没)
- 両側とも強くへこんでいる
- 家族に陥没乳頭の人がいる(遺伝傾向)
また、思春期に「気になるから」と強く引っ張る・吸引器を長時間使うなどの行為は、乳管を傷つけて炎症を起こす原因になります。
一度炎症を起こすと、線維化してさらに引き込みが強くなることもあるため、自己流ケアは慎重に行うべきです。
軽度のうちは自然に出てくる可能性もありますが、成人しても改善しない場合や見た目・衛生面で悩みが続く場合は、医療機関で相談しておくと安心です。
重度・真性陥没乳頭との違い

陥没乳頭は、重症度によって「軽度(仮性)」と「重度(真性)」に分類されます。両者の違いは、乳頭が外に出るかどうかです。
重度の場合は乳管自体が強く短縮・癒着しており、自然に外へ出すことはできません。
一方、軽度は見た目がそこまでひどくなく、「出すことはできる」ため放置されがちです。
しかし、軽度でも乳頭の根元に癒着が残っていると、少しの刺激で再び陥没します。
授乳期に母乳が滞る、清潔を保てない、見た目のストレスが続くなどの問題を抱える可能性があるため、軽度でも油断せず状態を見極めることが重要です。
重度・真性の陥没乳頭については、以下の記事もご覧ください。
【重度の陥没乳頭の治し方・手術治療】真性の症状・原因・リスクと授乳困難な場合の保険適用
軽度・仮性陥没乳頭の自宅での治し方

軽度の場合、自宅でできるケアによって一時的に乳頭が出やすくなることがあります。
ただし、いずれも「改善を促す補助的な方法」であり、根本的な解決ではありません。
- 乳頭マッサージ
お風呂上がりなど皮膚が柔らかいときに、乳頭を軽く引き出すようにマッサージします。
乳頭の根元を親指と人差し指で挟み、軽くつまむ・回すように刺激します。
これにより皮膚の柔軟性を高め、乳頭が外に出やすくなる効果が期待できます。
ただし、強く引っ張ると乳管を損傷することがあるため、優しく行うのが基本です。
- 吸引器(ニップルサッカー)の使用
市販の乳頭吸引器を使うと、軽い陰圧で乳頭を引き出すことができます。
使用する際は清潔な状態で1日2〜3回、数分程度にとどめましょう。
やりすぎると皮膚が裂けたり、内出血を起こすリスクがあるため注意が必要です。
- 保湿ケア
乳首周囲の皮膚が乾燥していると、引っ張られて乳頭が戻りやすくなります。
ワセリンなどで保湿し、皮膚を柔らかく保つことでセルフケア効果を高められます。
- 授乳前の準備(出産後)
出産後に軽度陥没が問題になる場合は、授乳前に軽く吸引して乳頭を出しておくと、赤ちゃんが吸いやすくなります。
注意点と限界
- 自宅ケアでは再陥没しやすく、長期的な改善は難しい
- 清潔を保たないと感染を起こす危険性がある
- 力を入れすぎると乳管損傷・痛み・炎症を起こす可能性がある
このように、軽度の陥没乳頭はセルフケアで一時的に出ても、根本原因(短縮した乳管・線維癒着)は解消できません。
「何度も繰り返す」「左右差が強い」「見た目のストレスが大きい」といった場合は、形成外科での手術が最も確実な方法です。
吸引器の効果とセルフケアについては、以下の記事もご覧ください。
陥没乳頭の治し方/吸引器の効果とセルフケアのリスク・手術で根本治療
軽度・仮性陥没乳頭を手術で改善するメリット

1. 再発しにくい構造的な改善
手術では、乳頭を引き込んでいる癒着や線維を丁寧に切り離し、乳頭を自然な位置に固定します。
これにより、マッサージではすぐ戻ってしまっていた乳頭も、安定して外に出るようになります。
再発率が低く、長期的な効果が得られます。
2. 授乳機能を保ったまま改善できる
軽度の陥没乳頭では、乳管を温存する手術法が可能です。
授乳機能を残したまま形を整えることができるため、将来の出産・授乳にも安心です。
特に20〜30代の女性には、この術式が選ばれることが多いです。
3. 清潔を保てる・炎症の再発防止
乳頭が表に出ることで汚れがたまりにくくなり、臭いや炎症の原因となる乳垢ができにくくなります。
結果的に乳頭炎や皮膚炎のリスクが減り、日常生活の快適さが格段に向上します。
4. 見た目の改善と心理的満足度
「人に見せる部位ではない」と思いながらも、乳頭の形にコンプレックスを持つ女性は少なくありません。
手術によって見た目が整うと、自信を持てるようになり、入浴やパートナーとの関係にも前向きになれるという声が多くあります。
5. 負担が少なく日帰り可能
軽度の場合は局所麻酔で30〜40分ほどの短時間手術で済み、通院も数回程度。
ダウンタイムは2〜3日で腫れが落ち着くケースが多く、仕事や家事に支障をきたしません。
Dr.三沢
軽度でも「一度で確実に治したい」と考える方には、形成外科での陥没乳頭手術がおすすめです。
特に近年は、乳管温存法などの技術が進化しており、見た目と機能を両立できるようになっています。
よくあるご質問
軽度の陥没乳頭を自力で治す場合、マッサージ・吸引器など一番効果のあるものは何ですか?
軽度(仮性)の陥没乳頭は、乳頭を外に引き出す組織が皮膚や乳管の癒着によって軽く引き込まれている状態です。そのため、強い癒着がない場合は、マッサージや専用の吸引器など、自宅ケアで改善する可能性もあります。
具体的には、清潔な手で乳頭をやさしくつまみ、回すようにマッサージする方法や、市販の陥没乳頭用吸引器を1日数回・短時間使用する方法が代表的です。吸引器は、乳頭を一定の陰圧で刺激することで皮膚の柔軟性を高め、乳頭が外に出やすくなる効果があります。
ただし、強く引っ張る・長時間行う・清潔を保たないなどの誤った使用は、炎症・出血・感染の原因となるため注意が必要です。また、マッサージを続けても改善が見られない場合や、再び陥没してしまう場合は、自己判断で続けず、早めに形成外科で相談することが大切です。医療機関では、乳管を温存したまま安全に形を整える治療が可能です。
軽度・仮性陥没乳頭だと、もともと軽度なので、手術したことは気づかれませんか?
軽度・仮性の陥没乳頭は凹みが浅く、外から見てもわかりにくい特徴があります。そのため、手術を行っても傷跡は極めて小さく、見た目の自然さはほとんど損なわれません。
施術では乳頭の裏側(乳輪の縁)を小さく切開し、内部の癒着を解除することで、乳頭が自然に突出するように整えます。傷口は数ミリ程度で、時間の経過とともに皮膚の色になじむため、周囲に気づかれることはほぼありません。
また、軽度の場合は乳管を温存できるケースが多く、術後も授乳機能を保てます。術後数日は赤みや軽い腫れが出ることがありますが、1〜2週間ほどで落ち着き、形状が安定します。服の上からはもちろん、入浴や日常生活の中でも「手術を受けた」とわかることはまずないでしょう。自然な見た目を重視する方にも向いている治療です。
軽度・仮性陥没乳頭の場合の手術は、保険適用になりませんか?
軽度(仮性)陥没乳頭の場合でも、授乳時に乳首が出にくい・母乳が詰まりやすい・乳腺炎を繰り返すなど、医学的な問題があると判断されれば、保険適用になるケースがあります。
保険診療では「乳頭の機能的な改善」を目的とした治療が対象であり、審美目的(見た目を整えるため)のみの場合は自費診療となります。つまり、機能回復のための治療なら保険適用、見た目改善が主目的なら自費という明確な線引きがあります。
保険での手術費用は、3割負担でおおよそ2〜3万円程度(片側の場合)となることが多く、自費診療では10万円以上になることが一般的です。
まずは医師による診察で乳管の状態や授乳への影響を確認してもらい、「医学的な治療」として適用できるかどうかを判断してもらうのが良いでしょう。形成外科や美容外科では、患者の目的に合わせて適切な診療方法を提案してもらえます。
【保険適用 陥没乳頭の手術における条件】保険適用外になる場合・未婚・40代など年齢についても解説
陥没乳頭の手術のあとのケアについて、どんなことに気をつけたら良いですか?
手術後のケアは、治療効果を長持ちさせ、再陥没を防ぐうえでとても大切です。
清潔を保つことが最優先で、シャワーの際は患部を強くこすらず、やさしく泡で洗うようにしましょう。入浴は医師の許可が出てから行うのが安心です。また、締め付けの強い下着やブラトップは避け、通気性の良い柔らかい素材の下着を選びましょう。
さらに、術後1週間は腫れや軽い痛みを感じることがあり、体調や睡眠不足、ストレスも回復を遅らせる原因になります。なるべく体を休め、無理のない生活を心がけてください。
抜糸が終わった後も、乳頭が戻らないように軽いマッサージを続けるよう指導されることがあります。再発が心配な場合は、早めにクリニックで診察を受けることで、再発を防ぐことができます。
Dr.三沢
術後のケアで最も大切なのは「清潔・固定・安静」の3点です。焦らず丁寧に回復を待つことで、美しい形と健康的な乳頭を維持することができます。
まとめ
- 軽度(仮性)の陥没乳頭は、見た目の違和感だけでなく、衛生面の問題・授乳時のトラブル・心理的ストレスなどを引き起こす可能性があります。
思春期では自然治癒することもありますが、成人しても改善しない場合や再発を繰り返す場合は、医療的治療を検討することが最も確実な方法です。
- セルフケアはあくまで一時的な対処であり、根本的な解決には形成外科での手術が有効です。
特に乳管温存法を用いた手術は、授乳機能を保ちつつ、自然で美しい乳頭を取り戻すことができます。
- 軽度だからこそ治療の負担が少なく、結果も安定しやすいのが特徴です。
「軽いから放置」ではなく、「軽いうちに治してしまう」という選択が、将来の自信や安心につながります。
- 軽度(仮性)の陥没乳頭であっても、形成外科での手術によってしっかり治すことで、機能面・美しさ・心の健康を取り戻せます。早めに相談することで、これからの人生をより快適に過ごす第一歩となるでしょう。