
乳頭の形には個人差があり、少しの左右差や形の違いは誰にでもあります。
しかし、「乳首が割れているように見える」「2つに分かれている」といった状態に気づくと、多くの方が不安を感じるのではないでしょうか。
その状態は「分裂乳頭(ぶんれつにゅうとう)」と呼ばれるもので、見た目の問題だけでなく、衛生面や授乳の支障につながることもあります。
実際に、分裂乳頭は自覚症状が少なく見逃されやすい一方で、炎症や再発性のトラブルを起こしやすい構造でもあります。
今回は、分裂乳頭の原因・放置によるリスク・陥没乳頭との違い・手術による治し方を詳しく解説します。
「見た目の悩みを改善したい」「将来の授乳に支障が出ないか知りたい」という方に向けて、医療的な観点から丁寧にお伝えします。
分裂乳頭とは?変形した乳頭の原因

分裂乳頭とは?
乳頭の中央が縦方向に割れて、2つに分かれたように見える状態を指します。
表面上は軽い割れ目に見えることもあれば、根元から深く二股に分かれていることもあります。
割れ目の深さや位置によって、形態には以下のような違いがあります。
- 軽度型:先端がわずかに割れている
- 中等度型:乳頭の中央まで割れ目がある
- 重度型:根元近くまで深く裂けており、完全に二股状になっている
外見上の印象は人それぞれですが、共通するのは「割れ目部分に汚れや分泌物が溜まりやすい構造」になっていることです。
先天性と後天性の原因
分裂乳頭は、「生まれつき(先天性)」か「後から起こる(後天性)」かによって背景が異なります。
| 項目 |
内容 |
| 先天性の分裂乳頭 |
胎児の発達過程で乳頭が形成される際、左右の皮膚組織の癒合が不十分だった場合に生じます。
生まれた時点ですでに割れ目があり、左右差として気づかれることが多いです。遺伝的な傾向も一部で報告されています。 |
| 後天性の分裂乳頭 |
後天性の場合、乳頭への外的刺激や損傷、炎症の反復などが原因となります。
・授乳中の亀裂や切れ込み
・授乳後の乳頭炎や湿疹
・ピアス・外傷などによる損傷
・強い摩擦(ブラジャー・マッサージ・擦れ)
・細菌感染による膿瘍や潰瘍の治癒過程での変形 |
特に、授乳期に乳首が切れてしまい、そのまま治癒した跡が分裂したように残るケースが多く見られます。
分裂乳頭になりやすい人の傾向
- 授乳経験がある
- 乳頭がもともと柔らかく小さい
- 乳頭湿疹を繰り返す
- 皮膚が薄く乾燥しやすい体質
- タイトな下着を常用している
つまり、乳頭に摩擦や炎症が起きやすい環境が続くと、誰でも分裂乳頭になる可能性があるということです。
分裂乳頭の問題点・放置することのリスク

- 1. 清潔を保ちにくく炎症を起こしやすい
乳頭の割れ目に皮脂や分泌液、母乳などが溜まりやすく、細菌が繁殖することで乳頭炎や乳腺炎を起こすリスクが高まります。
特に、深い割れ目の奥は洗っても汚れが残りやすく、慢性的な炎症を繰り返す原因となります。
- 2. 授乳時の痛み・トラブル
分裂部分に赤ちゃんの吸引力が集中するため、強い痛みや出血を伴うことがあります。
乳管が複数方向に分かれてしまうと、母乳の流れが悪くなり、乳汁が詰まりやすくなります。結果として、母乳育児の継続が難しくなるケースもあります。
- 3. 感染・膿瘍形成の危険
細菌感染が続くと、乳頭内部に膿がたまり「乳頭膿瘍」を形成します。膿瘍が破れると、さらに深い裂け目が生じて変形が進行します。
再発を繰り返すことで皮膚が硬くなり、治療が難しくなることもあります。
- 4. 美容的・心理的な影響
「乳首が裂けて見える」「左右で形が違う」といった見た目の違和感は、女性にとって大きなストレスとなります。
温泉やパートナーとの関係においても人目が気になり、自信喪失や性的コンプレックスを引き起こすケースもあります。
- 5. 陥没乳頭や他の病変と誤認されるリスク
分裂乳頭の中央が凹んで見える場合、「陥没乳頭」と誤解されることがあります。
また、稀に乳頭腫瘍や乳管拡張症などの病変が併発していることもあるため、自己判断せず医師の診察を受けることが不可欠です。
乳頭の変形 分裂乳頭と陥没乳頭の違い

陥没乳頭とは?
陥没乳頭は、乳頭が内側に引き込まれている状態です。皮下の線維化や乳管の短縮が原因で、外から見て乳首が「へこんで見える」特徴があります。
見た目と構造の違い
どちらも乳頭形態の異常ではありますが、構造と治療方針は全く異なります。
誤って「自分は陥没乳頭だ」と思い込むと、誤ったケアや刺激で症状を悪化させることがあるため注意が必要です。
医師が見分ける診断ポイント
- 乳頭の裂け目の位置・深さ
- 乳管の方向と開口部の数
- 授乳歴や炎症歴
- 陥没時の可動性・引き出しテスト
形成外科・乳腺外科では、視診や触診、場合によっては乳管造影などで正確に診断を行います。
分裂乳頭の治し方・手術

自然治癒は難しい
軽度の表面裂けであれば一時的に改善することもありますが、明確な割れ目がある分裂乳頭は、自然には元に戻りません。
皮膚の裂けた部分が再癒合しても、形状の歪みや乳管の位置のズレが残ってしまうため、医療的な形成が必要です。
手術による治療法
分裂乳頭は、乳頭形成術(Nipple Reconstruction)によって改善します。
施術は局所麻酔で行われ、日帰り手術が可能です。
手術の手順
- デザイン:乳頭の形をシミュレーションし、どの部分を切除・縫合するかを決める。
- 局所麻酔:痛みを感じないように処置。
- 分裂部の切除:割れた部分の余分な皮膚を整え、乳管を温存。
- 縫合形成:乳頭の左右を縫い合わせて丸みを再現。
- 固定と保護:ボルスター固定や軟膏保護を行い、感染を防止。
施術時間は30〜60分程度。
術後の腫れや赤みは2〜3日で落ち着き、抜糸は1週間前後で行います。
手術後の経過と注意点

- 術後1〜2週間:腫れ・赤み・違和感が残るが軽快傾向
- 術後1ヶ月:形が安定し、自然な乳頭形状に近づく
- 術後3ヶ月:ほぼ完成形。傷跡は目立たなくなる
授乳機能は温存されることが多く、将来的な授乳にも支障はありません。
ただし、炎症が強く組織が硬化しているケースでは、完全修復に追加治療が必要なこともあります。
手術のメリット
- 左右差の改善・美しい乳頭形状の再建
- 清潔を保ちやすくなる
- 炎症・感染の再発予防
- 授乳トラブルの改善
- 精神的ストレスの軽減
また、美容目的でも施術可能であり、30代〜40代の授乳経験者から、20代の先天性症例まで幅広く行われています。
手術費用と保険適用
多くの場合、美容目的と判断されるため自由診療となり、片側で10〜20万円前後が目安です。
ただし、炎症・膿瘍・亀裂などを伴う場合は保険適用となるケースもあります。
診察時に医師へ「保険適用の可能性があるか」を確認しておくと安心です。
再発予防・術後ケア
- 下着の摩擦を避ける(柔らかい素材を使用)
- 乳頭の保湿を行う
- 授乳時は姿勢と吸い付き方を工夫する
- 炎症が起きた場合は早めに受診
術後の再裂開や炎症を防ぐためには、日常的なケアと清潔保持が非常に大切です。
よくあるご質問
分裂乳頭は病気ですか?何科を受診すればいいですか?
分裂乳頭は、乳頭が縦や横に割れたように見える形状のことで、「乳頭の先天的な形の違い」として生まれつき見られることが多いです。そのため、基本的には“病気”ではありません。ただし、炎症や授乳時の損傷、感染などが原因で乳頭が割れてしまう「後天的な分裂乳頭」もあり、この場合は治療が必要になることがあります。
見た目の左右差や亀裂部分からの分泌、痛みなどがある場合には、形成外科や美容外科での診察がおすすめです。乳腺炎などの症状を伴う場合は、乳腺外科でも診てもらえます。まずは医師に相談し、原因が先天的か後天的かを明確にすることが大切です。
生まれつき分裂乳頭の人の割合はどれくらいですか?
分裂乳頭は、先天的な乳頭形態異常の一種であり、比較的まれなケースとされています。正確な統計はありませんが、乳頭の先天的な変形の中でも「数%前後」といわれています。生まれつきの分裂乳頭は、遺伝的要因よりも胎児期の発生段階で乳頭が形成される過程に個体差が生じることが原因と考えられています。
多くの場合、健康上の問題はなく見た目だけの違いですが、両側に見られることもあれば片側だけの場合もあります。思春期以降に目立って気づく人も多く、年齢や体の変化とともに形の印象が強くなることもあります。
分裂乳頭でも授乳できますか?
分裂乳頭でも多くの方は授乳が可能です。乳管の位置や開口部が正常に機能していれば、母乳の分泌には影響しません。ただし、乳頭の割れ目が深い場合や乳管が分裂部に沿って細くなっている場合には、母乳が出にくい・詰まりやすいといったトラブルが起こることもあります。
また、授乳時に赤ちゃんが吸いつきにくい、乳頭が傷つきやすいといった問題が出ることもあるため、痛みを感じる場合は無理せず、助産師や乳腺外科の医師に相談しましょう。状況に応じて吸引補助器具の使用や姿勢の工夫で対応できる場合もあります。
分裂乳頭の手術は保険適用されますか?
分裂乳頭の手術は、目的によって保険適用の有無が変わります。見た目を整える「美容目的」の場合は自由診療(自費)になりますが、炎症を繰り返している、授乳が難しい、出血や感染があるなど機能的な問題を伴う場合は、保険適用の対象となることがあります。
保険適用で治療できるかは、医師の診断と症状の程度によって判断されます。まずは保険診療を行っている形成外科や乳腺外科で相談し、治療方針を決めるのが良いでしょう。なお、自由診療の場合の費用は、クリニックによって異なりますが10〜20万円前後が目安です。
分裂乳頭の手術と一緒に乳頭も縮小したいのですが、同時に治せますか?
はい、可能です。分裂乳頭の整形手術と乳頭縮小術は、同時に行うことが多くあります。分裂している部分を縫合しながら、全体の高さや直径を整えることで、よりバランスの取れた自然な乳頭に仕上げることができます。
同時手術のメリットは、ダウンタイムが一度で済むことや、左右の形のバランスを一緒に整えられる点です。術後は数日間ガーゼ固定を行い、抜糸は1週間程度で可能です。授乳を希望する方の場合は、乳管を温存する方法を選択することで将来的な授乳にも影響が出にくいよう配慮します。
男性ですが、分裂乳頭の治療は可能ですか?
もちろん可能です。分裂乳頭は女性だけでなく男性にも見られます。男性の場合、乳頭の形を気にして来院される方も少なくありません。特に、温泉やジムなどで見られる機会が多い方や、上半身のトレーニングを行っている方にとっては、審美的なコンプレックスになることもあります。
治療は男女とも同じく、局所麻酔下で分裂部分を縫合し、自然な形に整える手術を行います。手術時間は30分〜1時間程度で、日帰りが可能です。術後の腫れや痛みも比較的軽く、1週間程度で日常生活に支障なく過ごせます。
まとめ
- 分裂乳頭は、乳頭が二股に割れたように見える状態で、先天性・後天性のどちらの要因でも発生します。
放置すると炎症や感染を繰り返し、見た目の悩みだけでなく授乳障害や乳頭炎の原因にもなります。
- 一方で、乳頭形成術によって安全かつ自然に修復することが可能です。
現代では美容的にも機能的にも満足度の高い結果が得られるようになっており、「見た目」と「機能」を両立した治療が期待できます。
- 分裂乳頭は放置せず、形成外科・美容外科で正しい診断と治療を受けることが大切です。
適切な手術によって美しく自然な乳頭を再建し、自信をもって日常生活を送ることができます。