
「命が助かった」乳がんの手術を終えた多くの方が、そう安堵する一方で、乳房を失った喪失感に直面します。特に乳房全摘術を受けた方は、「鏡を見るたびに胸の左右差が気になる」「温泉や更衣室が苦痛」「パートナーとの関係がぎこちなくなった」と感じることも少なくありません。
「乳房再建術」は、ただの美容手術ではなく、「自分らしさ」や「前向きに生きる力」を取り戻す医療行為として、多くの女性がこの選択に希望を見出しています。
今回の記事では、主に20〜60代の女性を対象に、乳房再建のメリット・デメリット、再建方法、保険適用のポイントまで詳しく丁寧にご紹介します。
乳房再建術とは?

乳房再建術とは?
乳がん手術で失われた乳房の形やふくらみを取り戻す治療です。
乳房は単なる体の一部ではなく、「女性としてのアイデンティティ」や「日常生活の質(QOL)」に直結する存在です。
「再建手術を受けたことで気持ちが前向きになれた」といった声や術後のうつ症状や対人関係の不安が軽減されるという報告もあります。
乳房再建術は、外見だけでなく、心の健康を取り戻すための「もう一つの治療」といえます。
乳房再建のメリット

乳房再建は、精神的・身体的・社会的な側面から「自分らしさ」を取り戻す大きな手助けになります。
乳房を失ったことによる「自己像の変化」は、見た目以上に生活全般に影響します。日常のふるまいや人間関係、自信喪失など、多くの人が目に見えない苦しみを抱えています。
精神的メリット
- 自尊心の回復:「再建後は笑顔が増えた」と話す女性多数
- 対人ストレスの緩和:「公共の場で自然に振る舞えるようになった」
身体的メリット
- 肩こりや姿勢バランスの改善:乳房の左右差が解消され、身体のゆがみを防止
- 肌トラブルの予防:補正下着による圧迫や皮膚の擦れの軽減
社会的メリット
- 社会復帰の促進:自信を持って職場や人前に出られるように
- 夫婦・パートナー関係の改善:再びスキンシップが自然に取れるようになった
乳房再建は、女性にとって外見の回復だけでなく、人生全体の質を高める重要な選択肢です。
乳房再建のデメリット

一方で、再建手術には一定のリスクや負担も伴うことを知っておく必要があります。
術後の合併症や追加手術の可能性・費用・精神的な負担は、乳房再建を検討する上での現実的な課題です。
身体的デメリット
- 傷跡が残る(特に自家組織の場合はドナー部位にも)
- 感染や出血、インプラントの破損などの合併症リスク
心理的・社会的デメリット
- 思い通りの形に仕上がらない可能性への落胆
- 結果を他者にどう伝えるか悩むことも
経済的デメリット
- 保険が適用される範囲には限度がある
- 保険外の乳輪・乳頭再建や美容的調整は、自費になることもある
上記のようなデメリットはありますが、正しい情報をもとに医師と十分に相談することで、多くの不安は解消可能です。
乳房再建術の方法

乳房再建は「自家組織移植」と「インプラント」の2種類に大別されます。
それぞれの特性を知ることで、ご自身にとって最適な方法を見つけることができます。
自家組織移植による再建
項目 |
内容 |
特徴 |
腹部・背中・太ももから組織を採取し、乳房に移植
自然な質感と形が得られる |
メリット |
・自分の体の組織なので拒絶反応がない
・加齢による体の変化に自然になじむ
・メンテナンスが不要 |
デメリット |
・手術が大がかりで入院・回復に時間がかかる
・傷が複数箇所に残る
・やせ型の方は適応しにくい |
インプラント(人工乳房)による再建
項目 |
内容 |
特徴 |
人工乳房(シリコン)を挿入してふくらみを作る
1〜2回の手術で済むことが多く、身体への負担が少ない |
メリット |
・傷が少なく美容的に優れている
・手術時間や入院期間が短い
・体型に関係なく実施可能 |
デメリット |
・年数とともに入れ替えが必要になる場合あり
・触感はやや人工的
・被膜拘縮や破損リスクがある |
保険適用と費用

現在、乳房再建は公的医療保険が適用され、費用負担が大きく軽減されています。
2013年に保険適用となって以降、多くの女性が経済的理由に左右されずに再建を受けられるようになりました。
- 自家組織再建
約50〜70万円(3割負担)
複雑な手術のため、施術する医療機関が限定される
- インプラント再建
約20〜40万円(3割負担)
保険対象となる医療機関と素材の使用が必須
- その他
乳頭・乳輪再建も条件により保険適用
反対側の乳房のバランス調整も一部保険適用に
保険制度の拡充により、より多くの方が乳房再建に前向きに取り組める環境が整ってきています。
施術事例【60代/女性 インプラント(拡張器)+脂肪注入(脂肪移植法)によるハイブリッド治療】

20年前の乳がんにより、右乳房の乳腺組織および周囲の脂肪組織が一塊(ひとかたまり)として全摘出された方の乳房再建事例です。
人工物が体内に留置されることに抵抗があったため、人工物であるインプラントは望まれませんでした。
そうなると、人工物を用いない乳房再建で通常行われる方法は、自家組織移植という方法です。
乳房再建・豊胸に多く使われる脂肪移植法とは?
広背筋皮弁法や腹直筋皮弁法は、侵襲度の大きい手術となり、入院治療が必要です。
一方、最近、全世界的に急速な広がりを見せている脂肪移植法は、前述の皮弁法よりも自由度が高く、侵襲度が小さい手術法です。乳房再建に留まらず、豊胸などにも多くの施設で行われています。
脂肪注入は、自分の組織を移動するだけなので、拒絶反応・異物アレルギー反応・感染などの危険性が少ない治療です。

乳房は柔らかい組織です。ご自身の脂肪移植で作られた乳房は、インプラントやその他の注入系の治療法にはない自然で本来の乳房の感触をもったものとなります。
今回の事例では、インプラント(拡張器)+脂肪注入(脂肪移植法)によるハイブリッド(混合)治療を行い、良い結果が得られました。
乳房再建ハイブリッド治療の流れ
- 乳がん術後の同じ創部から、インプラント拡張器の留置。
- 拡張器を徐々に膨らまし、最大限になるところまで行った後に、拡張器を萎ませます。スペースができた部位であるデコルテに脂肪注入。
- 拡張器を抜去して、2回目の脂肪注入を行いました。
Dr.三沢
全世界的にみても主流な乳房再建法の一つとなった脂肪注入では、ガンが増加することはないと言われており、安全性が担保されています。また、シリコンなどの異物でなく、自家移植である脂肪を使用しているので、質感・感触ともに今まで通りの乳房になります。
【保険適用】乳頭・乳輪再建
2年間かけて脂肪豊胸による乳房再建を行い、胸の膨らみを形成し、最終治療である乳輪・乳頭形成術も行いました。
乳輪部の治療を先に行い、医療用アートメイクを行います。そして、対側(健常側:左側)から乳頭の一部を移植します。その後に医療アートメイクを2回行うことで乳輪の大きさを調整します。やや、右の乳房下溝が高いので低くすることで対称性が可能となります。
再建乳房乳頭形成術は保険適応となり、3割自己負担となります。
脂肪豊胸による乳房再建後の乳頭・乳輪再建について、詳しくは以下の事例ページもご覧ください。
乳房再建後(脂肪豊胸)の乳頭・乳輪再建
よくあるご質問
乳房再建の費用は保険適用が可能ですか?
はい、乳がんによる乳房全摘術を受けた方が対象であれば、乳房再建手術には健康保険が適用されます。再建方法には「自家組織法(自分の組織を使う方法)」と「インプラント法(人工乳房)」がありますが、いずれも保険適用の対象です。また、手術費の自己負担額を軽減できる「高額療養費制度」の利用も可能です。
脂肪注入による乳房再建は保険適用されますか?自由診療ですか?
現時点では、脂肪注入単独による乳房再建は保険適用外です。ただし、インプラントや自家組織での再建後の仕上げとして脂肪注入を行うケースでは、一部医療機関で保険適用されることがあります。詳しくはカウンセリングにて相談されることをおすすめします。
乳房再建手術の名医を探すにはどうすればいいですか?
以下のポイントを押さえて探すとよいでしょう。
・乳房再建の症例数が多い医師を選ぶ(病院の公式サイトで確認可能)
・形成外科専門医やがん認定医の資格を持っているかを確認する
・再建手術の実績や写真(Before/After)が公開されているかチェックする
・セカンドオピニオンやカウンセリングを丁寧に行ってくれるかを重視する
乳房再建手術の退院後の生活における注意点はありますか?
退院後は以下の点に注意が必要です。
・腕の動きは無理をせず徐々に戻していく(特にリンパ節切除後はむくみに注意)
・入浴や運動の再開は医師の指示を必ず守る
・創部の清潔を保ち、感染症の兆候(赤み・熱・腫れ)に注意
・定期的な通院と経過観察を継続すること
・精神的なサポートも大切なので、必要に応じて相談窓口を活用しましょう
身体と心の両面から無理なく回復を目指していくことが大切です。
まとめ
- 乳がんを乗り越えたあなたが、次に向き合うのは「どう生きるか」という問いかけです。乳房再建は、単なる見た目の問題だけではありません。人生を前向きに再構築するための、大切な選択肢です。
- 乳房再建手術を検討されているようでしたら、専門の医師に相談してみてください。形成外科や乳腺外科の専門医との相談を通じて、あなたにとって最良の方法がきっと見つかるはずです。