
胸の腫れは、多くの人にとって不安を感じる症状の一つです。特に女性にとっては、乳がんをはじめとした病気の可能性を疑ってしまうことが多く、場合によっては強いストレスの原因にもなります。また、実は男性にも胸の腫れが起こることがあり、「なぜ自分が?」と戸惑われる方も少なくありません。
今回の記事では、「胸の腫れ=病気なのか?」「どんな原因が考えられるのか?」「対処法はあるのか?」といった疑問を、医療的な視点からわかりやすく解説いたします。男女問わず、胸の腫れに悩んでいる方にとって、不安を解消する一助となる情報をお届けいたします。
結論として、胸の腫れは一時的な変化で済むこともあれば、重大な疾患のサインであることもあります。適切な知識を持ち、必要に応じて医療機関での診察を受けることが大切です。
胸の腫れの主な症状

胸が腫れていると感じるとき、その症状は以下のような形で現れることがあります。
- 片側または両側の乳房の腫れや張り
- 乳房の圧痛(触れると痛い)
- 腫れている部分の熱感や赤み
- しこり(腫瘤)のような硬い感触
- 乳首の変形や分泌物
- ズキズキする痛みや鈍い重さ
- 動かすと痛む、寝返りで圧迫感がある
- 特に女性では、生理周期に関連して一時的に胸が張ったり腫れたりすることもあり、正常範囲と考えられるケースも少なくありません。一方、明らかなしこりや痛みを伴う場合、何らかの病変が関与している可能性があります。
- 男性にとっては、通常ほとんど変化しないはずの乳房が腫れること自体が異常なサインです。女性に比べて認識が遅れやすいため、違和感がある場合は早めに対応することが求められます。
乳房(胸)が腫れる主な原因

胸の腫れには、日常的な要因から病的な要因までさまざまな原因が考えられます。ここでは、主な原因をわかりやすく分類してご紹介します。
- ホルモンバランスの変化
・月経前症候群(PMS)
・妊娠初期
・授乳期の乳腺の変化
・更年期障害によるホルモンの乱れ
女性はライフステージによってホルモンの影響を大きく受けるため、腫れや張りは比較的起こりやすい症状です。
- 外傷・摩擦
・ブラジャーや下着による締め付け
・スポーツや転倒などの外的衝撃
日常生活での圧迫や怪我が原因で、乳房に一時的な腫れが起こることがあります。
- 感染や炎症
・乳腺炎
・脂肪壊死
特に授乳中の女性に多く見られますが、男性でもまれに乳腺炎が起こることがあります。
- 薬剤・サプリメント
・ホルモン剤(ピル・ホルモン補充療法)
・一部の精神安定剤・抗うつ薬
・サプリメント(イソフラボン・プロテイン)
体内ホルモンに影響を与える薬剤や成分の摂取が、胸の腫れや痛みを引き起こすことがあります。
- 肥満・体重増加
脂肪組織が増えることで乳房全体のボリュームが増し、腫れやすく感じることがあります。
乳房(胸)の腫れで疑われる疾患・病気

胸の腫れが病気によるものである場合、次のような疾患が関係している可能性があります。早期発見と早期対応のためにも、症状に心当たりがある場合は医療機関での診察をおすすめします。
1. 乳腺炎(にゅうせんえん)
乳腺に細菌が入り込み、炎症を起こす疾患です。
項目 |
内容 |
症状 |
腫れ、赤み、熱感、痛み、発熱 |
主な発症例 |
授乳期の女性が最も多いが、男性でも発症するケースあり |
対処 |
抗生物質治療、膿が溜まっている場合は切開排膿 |
特に乳首に傷があると、そこから細菌が侵入しやすくなります。乳腺炎を繰り返す場合には、陥没乳頭の治療など、根本原因の解消が必要なこともあります。
2. 乳腺症(にゅうせんしょう)
乳腺の構造的な変化によって起こる良性の状態です。
項目 |
内容 |
症状 |
月経周期に伴って起こる腫れや痛み、しこりの感触 |
特徴 |
良性ではあるが、乳がんと区別がつきにくい場合もある |
乳腺症は30〜50代の女性に多く、経過観察が基本ですが、症状が強ければホルモン治療が行われることもあります。
3. 乳腺嚢胞(にゅうせんのうほう)
乳腺内に液体が溜まってできる袋状の構造です。
項目 |
内容 |
症状 |
触るとコロコロしたしこり、腫れ、圧迫感 |
治療 |
小さなものは経過観察、大きい場合は穿刺(せんし)して中の液体を抜く |
多くは良性で心配ありませんが、急速に大きくなる場合は精密検査が必要です。
4. 乳がん
胸の腫れが、悪性腫瘍の初期症状である場合もあります。
項目 |
内容 |
症状 |
しこり、乳頭からの血性分泌物、皮膚のへこみやくぼみ、片側だけの腫れ |
注意点 |
痛みを伴わない乳がんも多いため、「痛みがないから大丈夫」とは限りません |
男性乳がん |
ごくまれですが、男性にも乳がんが発症します(特に高齢の方) |
乳がんは早期発見で生存率が大きく変わる病気です。定期的な乳がん検診の受診や、自己触診を習慣にすることが重要です。
5. 脂肪腫・線維腺腫
脂肪や線維組織からなる良性の腫瘍です。
項目 |
内容 |
症状 |
しこり、違和感 |
特徴 |
触っても痛みがないことが多く、比較的ゆっくり大きくなる |
治療 |
必要に応じて外科的切除 |
画像検査で良性と判断されれば、そのまま経過観察となるケースが多いです。
胸の腫れを防ぐセルフケア・対処法

胸の腫れをすべて予防することは難しいものの、日常生活でのちょっとした習慣によって、症状を和らげたり、予防に役立てたりすることが可能です。
- ホルモンバランスを整える
・十分な睡眠
・バランスのよい食事(大豆製品は適度に)
・適度な運動やストレッチ
・ストレスの軽減
ホルモンバランスの乱れは胸の腫れに直結します。日常的に自律神経を整えることが予防に有効です。
- 乳房を圧迫しない下着選び
・サイズが合ったブラジャーを着ける
・締めつけが強すぎないものを選ぶ
・スポーツブラで衝撃を軽減
特に生理前や授乳期には胸が敏感になりやすいため、ゆとりのある下着が望ましいです。
- 乳房を清潔に保つ
・汗や皮脂による蒸れを防ぐ
・入浴時にやさしく洗浄
・授乳中は乳頭を清潔に保つ
細菌感染を防ぐことで乳腺炎などのリスクが軽減されます。
- 自己触診の習慣化
・月1回、排卵後〜生理前のタイミングが理想
・鏡の前で視診+指でしこりの確認
・変化に気づいたらすぐ受診
定期的な自己チェックにより、小さな変化にも早く気づくことができます。
胸の腫れの際のカウンセリング・検査

胸に腫れを感じた場合、「様子を見ていいのか」「病院に行くべきか」で迷う方は多いものです。以下に、医療機関でどのような流れで診察・検査が行われるのかを解説します。
- カウンセリングの内容
診察では、まず問診により症状の経過や背景が詳しく聞かれます。
・腫れの期間(いつからか)
・痛みの有無、性質(ズキズキ・鈍痛など)
・しこりの有無と大きさ
・発熱や分泌物の有無
・生理周期や妊娠・授乳の有無
・家族歴(乳がんなど)
これらの情報は、どの疾患の可能性があるかを見極める手がかりになります。症状に関係なさそうでも、生活習慣や服薬履歴もあわせて確認されることがあります。
- 画像検査の流れ
症状や医師の判断に応じて、以下のような検査が行われます。
・触診:実際に手で乳房を触れて、しこりや腫れの性質を確認
・超音波検査(エコー):乳腺内のしこりや嚢胞の有無を確認
・マンモグラフィ:特に40歳以上の女性に有効。石灰化や構造変化を検出
・MRI・CT:詳細な画像で構造異常や腫瘍を評価
・細胞診・針生検:しこりの一部を採取して良性・悪性を診断
Dr.三沢
これらの検査を組み合わせることで、原因となる病気を特定していきます。必要に応じて形成外科・乳腺外科・婦人科など専門的な診療科に紹介されることもあります。
男性が受診する際の注意点
男性が「胸が腫れている」と感じた場合、内科や乳腺外来での診察が推奨されます。男性乳がんは稀ではありますが、見落とされがちです。羞恥心から受診が遅れないよう、早めの相談が大切です。
施術事例【20代 女性/陥没乳頭が原因で乳腺炎を繰り返したため手術で改善】

今回は、陥没乳頭に悩まされていた20代女性の施術事例をご紹介します。思春期の頃から乳腺炎をたびたび発症しており、これまでに3回以上繰り返していたとのことです。陥没乳頭による乳腺炎の再発にお困りで、治療を決意されました。

陥没乳頭とは?
陥没乳頭とは、乳頭が皮膚の内側に陥没して表面に出てこない状態のことを指します。このような形状では乳頭のくぼみに皮脂や老廃物が溜まりやすく、空気の流れが悪くなるため、細菌が繁殖しやすい環境となってしまいます。
10代から20代の若い世代でも、陥没乳頭が原因で乳腺炎を繰り返すケースは少なくありません。特に思春期を迎えると、女性ホルモンの分泌が盛んになり乳腺の活動が活発化することで、乳頭周囲からの分泌物も増加します。そのため、炎症を起こしやすくなり、乳腺炎を発症しやすいリスクが高まります。一度発症すると治療後も再発を繰り返すことがあるため、注意が必要です。

繰り返される乳腺炎は、乳房の腫れ、強い痛み、発熱などの不快な症状を引き起こすだけでなく、乳腺自体にダメージを残してしまうこともあります。加えて、将来的な授乳への支障や炎症の慢性化による膿瘍(うみ)の形成、重症例では手術による切開が必要になることもあるため、早期の治療が重要とされています。
陥没乳頭の予防には、日常的な清潔の保持が基本ですが、根本的な改善を目指すには、外科的な矯正手術が有効な選択肢です。近年では見た目にも配慮した低侵襲な手術法が主流となっており、傷跡もほとんど目立たず、術後の生活にも支障が出にくいのが特徴です。
手術の経過・手術直後


手術の際に確認された状態として、乳頭が内部に陥没していた部位には、「瘻孔(ろうこう)」と呼ばれる感染経路が形成されており、そこから膿が乳輪上の皮膚の赤くなった部分を通して排出されていました。このような状態は、慢性的な炎症によるもので、自然治癒が難しいケースです。
Dr.三沢
今回のケースでは、陥没乳頭形成術により乳頭がしっかりと突出するようになり、瘻孔が消滅されました。術後は乳腺炎の再発もなく、経過は良好です。
よくあるご質問
乳房の腫れは何科を受診するのが良いですか?
乳房に腫れや痛みを感じた場合は、乳腺外科を受診するのが最も適切です。乳腺外科は、乳がんや乳腺炎、乳腺症など乳腺に関するあらゆる疾患の診断と治療を専門に行う診療科です。ただし、お住まいの地域に乳腺外科がない場合は、以下の診療科でも初期診察が可能です。
形成外科:しこりや腫れの原因を調べる画像検査や触診を行い、陥没乳頭の場合は治療が可能です。
婦人科:女性ホルモンのバランスや乳腺の変化に関する相談も可能です。
内科:痛みや発熱を伴う場合など、全身的な視点での診察が受けられます。
受診時には、いつから腫れているのか、痛み・赤み・熱感の有無、生理周期や授乳中かどうかといった情報を伝えると、診断の助けになります。
赤みのある乳房の腫れは何の症状でしょうか?
乳房の赤みと腫れは、乳腺炎や炎症性乳がんなどが疑われます。とくに熱感や痛みを伴う場合は感染性の乳腺炎の可能性があり、早めの治療が必要です。一方、症状が慢性的で治りにくい場合は、悪性疾患の可能性もあるため、速やかに医療機関を受診してください。
男ですが胸が腫れて痛いです。男性でも起こり得る疾患でしょうか?
はい、男性でも胸の腫れや痛みが生じることがあります。以下のような疾患・状態が原因となる可能性があります。
■ 男性の乳腺炎
まれですが、男性にも乳腺組織が存在しており、何らかの感染や炎症により乳腺炎を起こすことがあります。
赤み・腫れ・痛み・熱感が出る場合は、女性と同様の炎症反応です。
■ 女性化乳房(ぎょくにゅうしょう)
思春期や中高年の男性に見られるもので、ホルモンバランスの変化や肥満、薬剤の影響(抗うつ薬・高血圧薬など)で乳腺が発達し、胸がふくらんで痛みを伴うことがあります。
思春期では一時的なもので、自然に改善するケースもあります。
中高年では、内分泌の異常や肝疾患、薬剤性を調べる必要があります。
■ 男性乳がん
発生頻度は女性に比べると極めて少ないですが、男性にも乳がんは起こりえます。
特に中高年以降の方で、片側の乳房にしこりや血性分泌、皮膚の陥没などが見られる場合は注意が必要です。
■ 筋肉や脂肪の炎症・脂肪腫
乳腺ではなく、胸部の筋肉や脂肪層にできる炎症・脂肪腫なども、腫れや痛みの原因となることがあります。
男性でも胸の腫れを感じた場合は、恥ずかしがらずに形成外科・乳腺外科で診察を受けることが大切です。早期に原因を特定し、適切に対処することで不安や症状の悪化を防げます。
まとめ
- 胸の腫れは、女性にとっても男性にとっても見逃したくない体からのサインです。一時的なホルモンの変化によるものもあれば、感染症や良性腫瘍、そして命にかかわる乳がんなど、重大な疾患が隠れていることもあります。
- 今回ご紹介したように、腫れにはさまざまな原因と病態があるため、自己判断で様子を見るのではなく、適切なカウンセリングや画像検査を受けることが症状の早期解消につながります。