
「胸がかゆい」と感じたことはありませんか?乳房や乳首、乳輪などのかゆみは、多くの女性が一度は経験する不快な症状です。しかし、人に相談しづらいデリケートな部位のため、つい放置してしまうことも少なくありません。
たとえ軽いかゆみであっても、繰り返したり、痛みや発疹を伴ったりする場合は、体からの何らかのサインである可能性があります。ときに乳がんなどの重大な疾患が背景に潜んでいることもあり、決して軽視してはいけません。
今回の記事では、胸・乳房・乳首・乳輪のかゆみに悩む女性のために、どのような症状があるのか、原因として考えられること、疑われる病気、自分でできる対処法や予防策、病院での検査・治療についてなど、詳しく解説していきます。
「ただの乾燥だから…」と自己判断せず、かゆみの原因を正しく知ることで、あなたの不快な症状が和らぎ、心身ともに健やかになれる第一歩を踏み出していただけたらと思います。
胸・乳房のかゆみの主な症状

胸のかゆみといっても、感じ方や現れ方は人それぞれです。以下のような症状が現れることがあります。
一般的なかゆみの症状
- チクチク・ムズムズとした不快感
- 掻いてもすぐにぶり返す持続的なかゆみ
- 赤み、腫れ、発疹、湿疹を伴うかゆみ
- 皮膚が乾燥して粉を吹くような状態
- かさぶたができる、じゅくじゅくする
- 左右いずれかだけに限定されるかゆみ
- 夜間に強くなるかゆみ
部位別の特徴
- 乳首のかゆみ:皮膚が薄く刺激に弱いため、乾燥や摩擦によりかゆみが出やすい。
- 乳輪周辺のかゆみ:アトピーやホルモン変動の影響が出やすい部位。
- 乳房全体のかゆみ:下着や汗による蒸れで発症しやすい。
- 胸の谷間や下部のかゆみ:通気性が悪く、真菌(カビ)の温床になりやすい。
このような症状が現れた場合、単なる一時的な肌トラブルなのか、何らかの病気が潜んでいるのかを見極めることが重要です。
胸のかゆみが起こる原因

胸のかゆみの原因は非常に多岐にわたります。日常生活に起因するものから、ホルモンの影響、皮膚疾患、内科的要因まで幅広く存在します。
- 乾燥によるバリア機能の低下
肌の乾燥は最も一般的な原因のひとつです。とくに秋冬や冷暖房の効いた室内で過ごす時間が長いと、皮脂や水分が不足しやすくなります。
・入浴時にゴシゴシ洗いすぎる
・熱いお湯での長風呂
・保湿を怠っている
・年齢による皮脂分泌の減少
などが重なることで、肌のバリア機能が低下し、外部刺激に過敏になります。
- アレルギー・接触性皮膚炎
下記のような刺激物によるアレルギー反応でかゆみが出ることもあります。
・化学繊維の下着(ナイロン・ポリエステルなど)
・洗濯洗剤や柔軟剤に含まれる香料
・新しいボディソープや化粧品
・紫外線や日焼け止め
乳首や乳輪は特にデリケートなので、少しの刺激でも炎症を起こすことがあります。
- ホルモンバランスの影響
女性ホルモンの変動は、皮膚の状態に大きな影響を与えます。
・月経前症候群(PMS):黄体ホルモンの増加により皮脂分泌が増え、肌がかゆくなる。
・妊娠中:乳腺の発達や皮膚の伸びでかゆみを感じやすい。
・更年期:エストロゲンの減少により乾燥肌が進行し、かゆみが生じる。
- 発汗・皮脂・摩擦
・胸の谷間やアンダーバストは通気性が悪く、汗や皮脂がたまりやすい部位です。
・ブラジャーなど下着との摩擦や締め付けも刺激となり、かゆみを引き起こします。
・特に夏場は「汗あれ」や「あせも」が原因になることも。
- ストレス・睡眠不足・体調不良
自律神経が乱れることで皮膚のかゆみを感じやすくなることがあります。特に慢性的なストレスが続くと、かゆみに対する閾値が下がり、わずかな刺激でも強いかゆみを感じるようになります。
胸のかゆみによって疑われる疾患・病気

胸のかゆみが長く続いたり、かゆみに加えて赤み・湿疹・ただれ・痛み・しこりなどが見られる場合、皮膚トラブルだけでなく、内因性疾患や悪性腫瘍(乳がん)が隠れている可能性もあります。
ここでは、代表的な疾患について詳しく見ていきましょう。
1. アトピー性皮膚炎
慢性的な皮膚の炎症を伴うアレルギー性疾患で、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症します。皮膚のバリア機能が低下し、外部刺激に対して過敏になりやすい状態です。
項目 |
内容 |
胸部での特徴的症状 |
・乳首・乳輪周辺の強いかゆみ、赤み、乾燥
・掻きむしりによる色素沈着やびらん
・思春期以降や成人女性に発症するケースも増加中 |
ポイント |
特に女性の場合、ブラジャーの締め付けや汗による蒸れがトリガーになりやすく、乳房の皮膚炎症状が強く現れることがあります。 |
2. 接触皮膚炎(アレルギー性・刺激性)
アレルゲンまたは刺激物との接触により、皮膚が炎症を起こす状態です。
・アレルギー性接触皮膚炎:洗剤・柔軟剤・ボディソープ・金属(ブラのワイヤーなど)によるもの
・刺激性接触皮膚炎:摩擦、汗、下着の素材などによるもの
項目 |
内容 |
症状の特徴 |
・赤み、ブツブツ、水ぶくれ、痒み
・掻くことで悪化し、滲出液やかさぶたに移行
・皮膚が分厚くゴワゴワになることもある |
注意点 |
同じ製品でも、季節や体調によって発症することがあります。新しい下着や洗剤に変えたタイミングでかゆみが出た場合は要注意です。 |
3. 乳房パジェット病(Paget病)※乳がんの一種
乳がんの中でも、乳首・乳輪の表皮にがん細胞が広がる特殊型乳がんです。見た目が湿疹と非常に似ているため、皮膚トラブルと間違われやすく、診断が遅れることがあります。
項目 |
内容 |
典型的な症状 |
・乳首のただれ、びらん、かゆみ
・赤み、鱗屑(皮膚の剥がれ)、かさぶたの形成
・一側性(片方だけ)に症状が出ることが多い
・掻き傷や湿疹が治らず、長期に持続する |
注意すべきポイント |
・湿疹治療(ステロイド外用など)をしても改善しない
・年単位で慢性的に症状が続くことも
・裏に乳管がんや浸潤性乳がんが隠れていることがある |
診断・治療 |
・皮膚生検によりがん細胞を確認
・乳房全体の画像診断(マンモグラフィー、MRIなど)を併用
・治療はがんの進行度により、手術・放射線・抗がん剤などを組み合わせます |
4. カンジダ皮膚炎(真菌感染)
カビ(真菌)の一種であるカンジダ・アルビカンスの過剰繁殖により起こる皮膚感染症です。高温多湿な環境、免疫力低下、汗・皮脂の多い部位で発症しやすく、胸の谷間やアンダーバストで見られます。
項目 |
内容 |
症状の特徴 |
・強いかゆみと赤み、ヒリヒリする痛み
・辺縁がはっきりした赤い斑(衛生的でない湿疹のよう)
・表面に白い皮膚のカスのようなものが付着することも |
リスク要因 |
・下着の締め付け・汗・肥満・糖尿病・抗生物質やステロイドの使用歴
・授乳中の母親(乳首にカンジダが付着することもある) |
治療法 |
・抗真菌薬の外用(ミコナゾール、クロトリマゾールなど)
・重症例では内服薬併用も |
5. 蕁麻疹(じんましん)
アレルギーや物理的刺激によって起こる、一過性の皮膚反応です。かゆみを伴う膨らみ(膨疹)が特徴で、突然発症し、数時間以内に消退することが多いです。
項目 |
内容 |
症状の特徴 |
・胸部や体幹に虫刺されのような赤い腫れ
・かゆみが強く、掻くとさらに広がる
・時間経過で消えるが、繰り返し出現する |
誘因 |
・食物(魚介類、卵、ナッツ等)
・薬剤(鎮痛薬、抗生物質など)
・温熱刺激、寒冷刺激、精神的ストレス |
治療法 |
・抗ヒスタミン薬の内服が第一選択
・慢性化した場合は、原因検索と継続的な薬物治療が必要 |
6. 皮膚がん(ボーエン病・基底細胞がんなど)
皮膚に生じるがんの中には、かゆみを伴うものもあります。乳房や胸部にできる皮膚がんは稀ではありますが、皮膚症状の変化に注意が必要です。
項目 |
内容 |
症状の特徴 |
・色の変化(黒・茶・赤など)
・境界が不明瞭な盛り上がりやしこり
・出血、潰瘍化、ただれなど
・非対称で拡大傾向にある場合は要注意 |
診断と対処 |
・皮膚科でのダーモスコピー診察
・必要に応じて皮膚生検
・外科的切除や放射線治療が行われることもある |
乳首・胸がかゆいときの対処法・予防策

- 日常生活でできるセルフケア
・保湿ケアの徹底:ワセリンや敏感肌用乳液などで保護。
・通気性の良い下着を選ぶ:綿素材・ワイヤーなしがおすすめ。
・洗剤・柔軟剤を見直す:無香料・無添加のものを選びましょう。
・シャワー後すぐ保湿:水分の蒸発を防ぐタイミングが重要です。
・掻かない工夫をする:冷タオルやアイスノンで冷やすと効果的。
- 医師の処方による対応
・ステロイド外用薬:炎症やかゆみを抑えるために使用。
・抗ヒスタミン薬(内服):かゆみの感覚を抑制します。
・抗真菌薬:真菌感染がある場合に用いられます。
・保湿剤(ヘパリン類似物質):皮膚のバリア機能を改善。
胸のかゆみの検査・診断

かゆみが慢性化している、湿疹が広がっている、痛みや出血があるといった場合は、皮膚科・乳腺外科を早めに受診しましょう。
診察・検査内容
- 視診・問診:生活習慣・発症時期・かゆみの部位などを確認。
- アレルギー検査:パッチテストや血液検査でアレルゲンを特定。
- 真菌検査:皮膚を採取して顕微鏡で確認。
- 皮膚生検:難治性湿疹や腫瘍の疑いがある場合。
- 乳腺検査:マンモグラフィー、超音波、MRI・エコー検査など。
正確な診断に基づいて治療を行うことで、かゆみの根本改善が期待できます。
施術事例【下着のワイヤーなどが当たってできる金属による接触性皮膚炎】

接触性皮膚炎とは?
疾患・病気の箇所で前述しましたが、特定の物質に触れることで炎症を起こす皮膚トラブルの一つです。赤みやかゆみ、水ぶくれ、皮むけなどの症状が現れ、触れた部分に限定して起こるのが特徴です。原因には、洗剤・化粧品・金属・植物などがあり、大きく分けて「刺激性接触皮膚炎」と「アレルギー性接触皮膚炎」の2種類があります。
接触性皮膚炎の治療
治療の基本は、原因物質との接触を避けることです。そのうえで、炎症を抑えるためにステロイド外用薬が処方します。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬を併用することもあります。
Dr.三沢
再発を防ぐためには、原因の特定とスキンケアの見直しが大切です。さらに症状が長引く場合は、再診と治療を受けることをおすすめします。
よくあるご質問
授乳中に胸がぶつぶつになったり、かゆいのはなぜですか?
授乳中はホルモンバランスの変化や赤ちゃんの吸い付きによる刺激で、乳首や乳輪、周辺の皮膚が敏感になります。その結果、かゆみやぶつぶつ(乳輪周囲のモントゴメリー腺の腫れや軽い皮膚炎など)が現れることがあります。保湿や授乳後の丁寧な拭き取りなどで改善することが多いですが、悪化する場合は皮膚科や産婦人科で相談しましょう。
胸の下がかゆくなったり、湿疹ができる原因は?
胸の下は汗がたまりやすく蒸れやすいため、あせもやカビ(汗疹性皮膚炎、カンジダ性皮膚炎など)によってかゆみや湿疹が起こることがあります。また、締め付けの強い下着や摩擦も原因となります。通気性の良い素材の下着を選び、清潔と保湿を心がけましょう。
胸の痒みが出るのは、ストレスが溜まっているからですか?
ストレスは自律神経やホルモンバランスに影響を与えるため、かゆみを感じやすくなることがあります。特にアトピー性皮膚炎など、もともと皮膚トラブルのある方はストレスが悪化因子となることがあります。かゆみが続く場合は皮膚科での診察を受け、生活習慣やメンタルケアも見直すことが大切です。
乳首がかゆいのは、乳がんの症状と関係がありますか?
乳首のかゆみは多くの場合、乾燥や摩擦、皮膚炎など良性の原因によるものです。ただし、かゆみに加えて湿疹が長引いたり、分泌物が出る、乳首がただれる・凹むといった症状がある場合は、「パジェット病(乳がんの一種)」の可能性も否定できません。気になる症状があれば、早めに乳腺外来を受診しましょう。
まとめ
- 胸のかゆみは不快でストレスになる症状ですが、原因を正しく知り、適切に対処することで改善が可能です。
かゆみの原因は、乾燥やアレルギー、ホルモン変動などの軽度なものから、乳房パジェット病や乳がんといった重大な病気まで幅広く、自己判断では見逃してしまうリスクがあります。
- 「胸のかゆみは放置せず、きちんと治療したい」と思った時こそ、専門医の診察を受け、安心して毎日を過ごせるようにしましょう。