
「下着にシミがついていた」「ふとしたときに乳首から何か出ている気がする」——このように、乳頭からの分泌物に気づくと、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。特に妊娠や授乳をしていない時期の分泌物は、「病気では?」と心配になるものです。
実際、乳頭分泌には生理的なものもあれば、ホルモンバランスの乱れ、感染症、良性腫瘍、まれに乳がんといった病気が原因であることもあります。正しく原因を見極め、必要に応じて医療機関を受診することが大切です。
今回の記事では、乳頭からの分泌物の特徴や原因、セルフチェックの方法、疑われる疾患、そして受診のタイミングまで、女性が安心して対応できるよう丁寧に解説します。悩んだままにせず、適切な対処をすることで、乳頭からの分泌物を治したいという思いを実現しましょう。
胸(乳頭・乳首)からの分泌物の特徴

分泌物の性状や色は、原因を知るための重要なヒントになります。以下に代表的な分泌物の種類と特徴をまとめます。
透明な分泌物
無色で水のような液体が片方、または両方の乳頭から出る場合は、ホルモンの影響や軽度の炎症、乳管の拡張などが原因のことがあります。比較的よくあるもので、生理的分泌の範囲に入ることもあります。
白色または乳白色の分泌物
母乳のような見た目で、妊娠中・授乳中であれば当然の分泌です。しかし、それ以外の時期に出る場合は高プロラクチン血症など、ホルモン異常の可能性があります。
黄色の分泌物
黄色や淡いクリーム色の分泌物は、乳腺炎などの炎症が原因であることが多いです。ときに膿が混ざっている場合もあり、違和感や痛みを伴うことがあります。
茶色の分泌物
古い血液が混ざって酸化し、茶色く見えることがあります。乳管内で出血が起きていた可能性があり、経過観察が必要です。
血液混じり(赤色)の分泌物
明らかな出血がみられる場合、乳がんなど重大な疾患の可能性が否定できません。特に片側だけで自発的に分泌されるような場合は、早急に医療機関の受診をおすすめします。
乳頭から分泌物が出る原因

乳頭からの分泌物の原因は、大きく分けて以下の3つに分類されます。
1. 生理的(病気ではない)原因
- 刺激による分泌:強く乳首を絞ったり、下着の摩擦などによって軽い分泌が起きることがあります。
- ホルモンバランスの変化:生理前、妊娠、授乳中、閉経前後など、ホルモンの変化が原因で乳頭分泌が起こる場合があります。
2. 良性疾患による分泌
- 乳管内乳頭腫:乳管内にできる良性腫瘍で、血性の分泌物を伴うことがあります。
- 乳腺炎・乳管拡張症:細菌感染や乳管の慢性的な炎症により、黄色や血性の分泌物が出ることがあります。
- 高プロラクチン血症:下垂体ホルモン(プロラクチン)の過剰により、妊娠していないにも関わらず母乳のような分泌物がみられることがあります。
3. 悪性疾患による分泌
- 乳がん(非浸潤性乳管がんなど):特に血性で、片側のみ、しぼらなくても分泌がある場合は、乳がんの可能性が考えられます。
- パジェット病:乳頭や乳輪にかゆみ、ただれ、分泌物を伴う乳がんの一種です。
自宅ですぐにできるセルフチェック・セルフケア

不安を感じたときには、まず自分でできるチェックとケアを行いましょう。
セルフチェックのポイント
- 分泌物の色・性状を確認:血が混じっていないか、透明か、片側か両側か。
- いつ出るのかを記録:自然に出てくるか、圧迫時のみか、左右差があるか。
- ほかの症状を確認:しこり、腫れ、痛み、乳頭のただれや変形など。
セルフケアの方法
- 強く絞らない:刺激が原因で分泌物が悪化する場合があるため、乳首を無理に押すのは避けましょう。
- 清潔を保つ:入浴時に優しく洗い、下着も通気性の良いものを使用しましょう。
- 保湿する:乾燥や刺激で乳頭が荒れている場合は、刺激の少ない保湿剤を使うのも有効です。
乳頭からの分泌物により疑われる疾患

以下、乳頭から分泌物がある場合に疑われる代表的な疾患をまとめます。
1. 高プロラクチン血症(こうぷろらくちんけっしょう)
特徴
白色または乳白色の分泌物/両側性が多い/乳がんではないがホルモン異常
項目 |
内容 |
原因・概要 |
脳下垂体から分泌される「プロラクチン」というホルモンが過剰になることで、妊娠していないのに母乳のような分泌物が出る状態です。主な原因は、下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)、ストレス、睡眠不足、薬剤(抗うつ薬・抗精神病薬など)の影響などです。 |
症状 |
分泌物に加え、生理不順や無月経、不妊、性欲減退などのホルモンバランスの乱れによる症状がみられることもあります。 |
診断・検査 |
血液検査でプロラクチン値を測定。必要に応じてMRIで下垂体腫瘍の有無を確認します。 |
治療 |
軽症であれば経過観察も可能ですが、多くは内服薬(ドパミン作動薬)による治療で改善します。腫瘍が大きい場合は手術が検討されることもあります。 |
2. 乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)
特徴
血性の分泌物/片側性が多い/痛みは少ない/良性腫瘍
項目 |
内容 |
原因・概要 |
乳管の内側にできるポリープ状の良性腫瘍で、閉経前後の40〜50代の女性に多くみられます。分泌物の多くは赤や茶色の血液混じりで、しぼらなくても自然に出ることがあります。 |
症状 |
しこりが触れない場合も多く、自覚症状は血性分泌のみというケースも少なくありません。痛みや腫れはほとんど伴いません。 |
診断・検査 |
乳腺エコーや乳管造影検査で乳管内の病変を確認します。血性分泌物がある場合は、細胞診による悪性所見の確認も行います。 |
治療 |
基本的には良性ですが、経過観察では不安が残るため、分泌の原因となる乳管ごと外科的に切除する「乳管切除術」が行われることが一般的です。 |
3. 乳腺炎・乳管拡張症
特徴
黄色や膿性の分泌物/痛み・熱感を伴う/細菌感染による急性炎症
項目 |
内容 |
原因・概要 |
乳腺内に細菌が侵入し、炎症を起こす状態です。主に授乳期に多くみられますが、授乳していない女性でも発症することがあります。慢性化すると「乳管拡張症」と呼ばれ、乳管が拡がって炎症を繰り返すようになります。 |
症状 |
乳房の一部に赤み、腫れ、強い痛み、発熱などを伴い、黄色や緑がかった膿状の分泌物が出ることがあります。 |
診断・検査 |
視診・触診と乳腺エコーが基本です。膿の培養検査で原因菌を特定する場合もあります。 |
治療 |
急性乳腺炎には抗生物質による治療が第一選択です。膿がたまっている場合は穿刺排膿が行われることもあります。慢性乳管拡張症では乳管切除が必要なこともあります。 |
4. パジェット病(Paget病)
特徴
黄色や血性の湿った分泌/乳頭のただれ・びらん・かゆみ/乳がんの一種
項目 |
内容 |
原因・概要 |
乳頭に現れる特殊なタイプの乳がんです。乳頭湿疹と似ているため初期に見過ごされやすく、外用薬でなかなか治らない乳頭の炎症として現れます。 |
症状 |
湿った分泌物、血性のかさぶた、乳頭のただれ、かゆみ、ヒリヒリ感などが持続します。片側のみの症状が多く、乳輪にも広がることがあります。 |
診断・検査 |
乳頭・乳輪の皮膚の一部を採取して病理検査(皮膚生検)を行います。乳腺全体の評価にはマンモグラフィやエコー、MRIを併用します。 |
治療 |
乳房温存手術、乳房全摘出術、リンパ節郭清などを含む外科治療が中心となります。必要に応じて放射線療法・化学療法も検討されます。 |
5. 非浸潤性乳管がん(DCIS:Ductal Carcinoma In Situ)
特徴
血性または茶色の分泌物/しこりが触れないことも/早期乳がんの一種
項目 |
内容 |
原因・概要 |
乳管の内側にがん細胞が増殖する状態で、まだ乳管の外側(間質)には浸潤していない早期の乳がんです。定期検診や乳頭分泌がきっかけで発見されることがあります。 |
症状 |
自覚症状が乏しく、しこりを感じない場合もありますが、乳頭からの血性分泌で気づくこともあります。マンモグラフィで石灰化が検出されることが多いです。 |
診断・検査 |
マンモグラフィや乳腺エコー、乳管造影、MRI、細胞診・組織診など、総合的に判断します。 |
治療 |
非浸潤がんであっても、外科的切除が基本です。乳房部分切除や全摘手術、術後に放射線療法を行うこともあります。転移は少ないものの、放置すると浸潤がんに進行するリスクがあります。 |
受診のタイミング・流れ

乳頭からの分泌物を発見した場合、以下のポイントを踏まえて受診を検討してください。
すぐに受診すべきケース
- 血が混じる、赤色の分泌物が出る
- 片側だけに分泌物が出る
- 自然に分泌が繰り返し起こる
- 乳頭や乳輪にただれや変形がある
- しこりが同時に触れる
受診の流れ
- 何科に行けばいい?
乳腺外来のある「乳腺外科」または「婦人科」「外科」での受診が適切です。
専門性が高い医療機関では、マンモグラフィ・エコー・血液検査・分泌物検査などが可能です。
- 問診・視診・触診
分泌の性状、頻度、月経周期との関連、全身症状などを確認します。
- 画像検査
マンモグラフィや乳腺エコーで腫瘤や乳管の異常を確認します。
- 必要に応じて追加検査
ホルモン検査、MRI、乳管造影、細胞診などを行う場合もあります。
よくあるご質問
乳頭からの分泌物は乳がんの可能性がありますか?
はい、乳頭からの分泌物の中には乳がんが原因となっている場合もあります。特に血が混じっていたり、片側だけから出る、自然に分泌されるといった特徴がある場合は注意が必要です。早期発見のためにも、気になる症状があれば乳腺外科での検査をおすすめします。
妊娠していないのに乳頭の角栓ができるのは異常ですか?
乳頭に角栓のようなものができること自体は、必ずしも異常とは限りません。皮脂や古い角質が詰まることでできることがあり、自然な生理現象の一つと考えられます。ただし、かゆみや赤み、痛みを伴う場合は皮膚トラブルの可能性もあるため、皮膚科での相談をおすすめします。
乳頭から分泌液が絞ると出る場合は検査が必要ですか?
自分で強く絞って出る程度の分泌であれば、生理的な現象であることが多く、必ずしも異常とは限りません。しかし、絞らなくても自然に分泌がある、血が混じっている、片側だけに症状があるといった場合は、病的な原因が疑われますので、念のため乳腺専門医の診察を受けると安心です。
乳頭から分泌液が出るのは、更年期と関係がありますか?
はい、更年期にはホルモンバランスの変化により、乳頭からの分泌物が見られることがあります。特に閉経前後はプロラクチンなどのホルモンの影響で乳腺が刺激されやすくなります。ただし、異常分泌や血性分泌がある場合は、更年期に限らず他の疾患の可能性もあるため、医療機関の受診をおすすめします。
男性ですが、乳頭から分泌液が出ることはありますか?
男性でも乳頭から分泌液が出ることはあります。ホルモンの異常、薬の副作用、または乳がんなどが原因となる場合もあります。特に血性分泌やしこりを伴う場合は、男性乳がんの可能性も否定できませんので、速やかに医師の診察を受けてください。
まとめ
- 乳頭からの分泌物は、必ずしもすべてが病気というわけではありません。しかし、色や性状によっては、早期に医師の診察を受けることで重大な病気の発見につながることもあります。
とくに血液混じりの分泌や片側のみの持続的な分泌は、乳がんや乳管の病変を疑う重要なサインです。まずはセルフチェックを行い、不安があれば早めに乳腺外科や婦人科などの専門医を受診しましょう。
- 「病気かどうか」を見極めるには自己判断では限界があります。正しい知識と適切な対応で、乳頭からの分泌物の不安を解消し、適切な診察と治療を受けて「治したい」という思いを現実にしていきましょう。