
妊娠や出産を経験する女性の中には、これまで気にならなかった乳首の形に変化を感じる方がいます。特に「乳首が凹んでしまった」「授乳しづらい」「赤ちゃんがうまく吸えない」といった悩みは、産前産後の授乳生活に大きな影響を与えます。これは「陥没乳頭」と呼ばれる状態で、軽度から重度まで程度に差があります。
妊娠・授乳期は乳腺や乳管に大きな変化が起こり、乳首にも負担がかかるため、以前から軽度だった陥没乳頭が悪化したり、出産をきっかけに発症したように見えることもあります。
今回の記事では、妊娠中・産後に陥没乳頭になる原因や、授乳によって改善することがあるのか、授乳時の工夫、放置するリスク、そして早めの治療の重要性について解説します。
乳首の凹み・凹んだ乳首の症状

陥没乳頭とは
乳首が外側に突き出さず、皮膚の内側に引っ込んだ状態をいいます。
- 軽度:指でつまむと乳首が出るが、刺激をやめると元に戻ってしまう
- 中等度:強くつまむ、吸引するなどの刺激でなんとか出るが、すぐ引っ込む
- 重度:刺激を加えても乳首がほとんど出ない
見た目だけでなく、乳管が短縮している・皮膚の癒着があるなど構造的な問題が隠れている場合があります。妊娠中や産後は乳汁分泌のために乳管が開きやすくなる一方で、乳首の引き込みが強いと授乳時に赤ちゃんが乳首をくわえにくくなります。
妊娠中・産後に陥没乳頭になることはある?悪化する原因

妊娠中は乳腺が発達し、乳首周囲の皮膚も伸びやすくなります。しかし、乳管の短縮や癒着がある場合、乳首が外に引き出されにくく、結果として「凹み」が目立つようになることがあります。
悪化の主な原因
- 乳管や乳首周囲の皮膚の癒着
生まれつき乳首の根元部分に皮膚や結合組織が癒着していると、乳首が引き出されにくくなります。
- 乳腺の発達による内部からの圧迫
妊娠中の乳腺発達により乳管が短くなったり、乳首が引き込まれる力が強まる場合があります。
- 乳首の形や皮膚の弾力性の低下
加齢や皮膚の質によって乳首の張りが弱くなり、元々目立たなかった凹みが顕著になることがあります。
このような胸の変化は産後にも続き、授乳のしやすさや乳腺炎リスクに影響を与えます。
陥没乳頭が授乳で治ったということはある?

軽度の陥没乳頭であれば、授乳中に赤ちゃんの吸引によって乳首が外に引き出され、形が改善することがあります。これは授乳が自然な「牽引療法」の役割を果たすためです。
しかし、中等度〜重度の場合は授乳だけでの改善は難しいのが現実です。無理に吸わせても、赤ちゃんがうまく吸えずに母乳がたまってしまい、乳腺炎やしこりの原因になる場合があります。
「授乳で治る可能性がある」と言えるのはあくまで軽度の場合で、しかも必ず改善するわけではありません。また、意図して治せるものでもありません。
乳首が凹んでいる場合の授乳時の工夫

陥没乳頭の状態で授乳を行う場合、以下のような工夫が有効です。
- 1. 授乳前のマッサージ
乳首周囲をやさしくマッサージし、乳首をつまんで軽く引き出すことで、赤ちゃんがくわえやすくなります。
- 2. 搾乳器や吸引器の使用
授乳前に軽く吸引して乳首を外に出すことで、授乳がスムーズになります。
- 3. 乳頭保護器(ニップルシールド)の活用
直接乳首をくわえにくい場合でも、シリコン製の乳頭保護器を使うことで吸着が安定します。
- 4. 授乳姿勢の工夫
赤ちゃんの顎が乳首の下にくるように抱き方を変えると、吸いやすくなることがあります。
ただし、上記のような工夫はあくまで一時的な対応であり、根本的な治療ではありません。
陥没乳頭(乳首の凹み)を放置するリスク・産前産後のケア

産前産後に陥没乳頭を放置すると、以下のようなリスクがあります。
- 授乳トラブル:赤ちゃんが乳首をくわえられず、授乳がうまくいかない
- 乳腺炎・乳管閉塞:母乳がうまく排出されず炎症が起こる
- 乳首の皮膚炎:摩擦や湿気による炎症
- 心理的ストレス:見た目の悩みや授乳不安による精神的負担
産前産後の陥没乳頭については、自宅でできる以下のような日常的なケアをおすすめします。
項目 |
内容 |
産前のケア |
妊娠中期〜後期にかけて軽いマッサージや吸引器を試す
産婦人科や助産師に早めに相談する |
産後のケア |
授乳の前に乳首を温めて血流を促す
搾乳器や乳頭保護器を適切に使用する
トラブルが続く場合は医療機関で相談 |
産前または前後に早めの陥没乳頭治療

根本的に陥没乳頭を治す方法は手術治療です。形成外科や美容外科で行われる陥没乳頭手術は、乳管を温存しながら乳首を外に出す方法や、再発防止のために内部構造を補強する方法があります。
陥没乳頭 手術のメリット
- 授乳がしやすくなる
- 再発を防ぎやすい
- 見た目の改善で自信が持てる
陥没乳頭 手術のタイミング
- 出産前に行えば、産後の授乳トラブルを予防できる
- 授乳が終わった後に行えば、授乳機能に配慮しつつ形を整えられる
Dr.三沢
軽度の場合でも再発や授乳トラブルが心配な方は、早めにカウンセリングを受けることをおすすめします。
施術事例【射乳(母乳がでる状態)の陥没乳頭手術で母乳育児が可能に】

手術前の陥没乳頭重症度はGradeⅡの中等度で、乳首を引きだすことが可能ですが、すぐに元の陥没した状態に戻ってしまう状況でした。
第一子のときに赤ちゃんが乳頭を咥えることができず、授乳障害を認めていたようです。第二子のときに「しっかりと突出した乳頭で母乳で育てたい!」という思いがあり、陥没乳頭治療を決心されました。
術後7日

術後30日

手術中より乳頭からの乳汁分泌があり、術後7日目の状態では血液と乳汁の分泌がありました。術後30日では両側からきれいな乳汁分泌を正常に認めていました。
エムズクリニックの小切開法での手術は以下の特徴があります。
1.術後の痛みが少ない
2.再発率が少ない
3.傷が目立たない
4.術後の乳管損傷がない
Dr.三沢
小切開法にて行い、陥没した乳頭を改善し、授乳障害から突出した乳頭での母乳育児が可能となりました。
よくあるご質問
陥没乳頭の読み方を教えてください。
「陥没乳頭」は『かんぼつにゅうとう』と読みます。
医療用語としては、乳首が周囲の皮膚よりも内側に入り込んでしまい、外から見えにくくなっている状態を指します。日常会話や医療現場でもそのまま「陥没乳頭」と呼ばれます。軽度から重度まで程度があり、見た目だけでなく授乳や衛生面にも影響を及ぼす場合があります。
妊娠・産後の変化で、乳首の凹みはより悪化したり左右差が出ることはありますか?
はい、妊娠や出産によって乳首や乳腺は大きく変化するため、陥没乳頭の状態が変わることがあります。妊娠中は乳腺の発達やホルモンの影響で乳房全体が張り、皮膚や乳首も引っ張られます。その過程で、もともと軽度だった乳首の凹みが深くなったり、片側だけ変化して左右差が生じることもあります。
また、乳管の本数や長さ、皮膚の柔軟性の違いによっても左右差が出やすく、特に片方だけが陥没しているケースも珍しくありません。こうした変化は一時的な場合もありますが、出産後や授乳後も形が戻らないこともあるため、気になる場合は早めに産婦人科や乳腺外科、形成外科で相談すると安心です。
授乳により、赤ちゃんが乳首を吸うことで凹んだ乳首が出やすくなるというのは本当ですか?
はい、本当です。授乳時に赤ちゃんが口で乳首と乳輪を包み込み、強く吸う動作(吸啜=きゅうてつ)が乳首を外側に引き出す刺激となります。特に軽度の陥没乳頭では、授乳を繰り返すうちに乳首が出やすくなり、そのまま改善する例もあります。
ただし、凹みが強く、乳首を引き出すときに乳管や皮膚の癒着が邪魔をしている重度のケースでは、授乳による自然改善は難しいことがあります。その場合、吸引器を用いたケアや、将来的には手術での矯正が必要になることもあります。授乳を始める前から乳首を少しずつ刺激して柔らかくするマッサージや吸引器の使用を行うと、授乳がスムーズになりやすいです。
陥没乳頭の治し方/吸引器の効果とセルフケアのリスク・手術で根本治療
まとめ
- 妊娠中・産後に陥没乳頭が目立つようになるのは珍しくありませんが、軽度であれば授乳で改善することもあります。しかし、中等度〜重度の場合や再発を繰り返す場合は、授乳のしづらさや乳腺炎などのリスクが高まります。
- 一時的なケアで乗り切ることも可能ですが、根本的な改善を目指すなら手術治療が確実です。形成外科や美容外科での陥没乳頭手術は、授乳機能を温存しながら形を整えることができ、産前産後の生活を快適にします。
授乳トラブルや見た目の悩みを長引かせず、安心して育児をスタートするためにも、早めの医療相談を強くおすすめします。