
授乳期の女性にとって「乳腺炎(にゅうせんえん)」は決して珍しいものではありません。初めての出産・授乳期には約2〜3割の方が経験するといわれており、胸の痛みや発熱といった全身症状が日常生活や育児に大きな影響を与えます。
特に「陥没乳頭」を持つ女性は、乳腺炎を繰り返しやすい傾向があります。乳頭が内側に引っ込んでいるために母乳がスムーズに排出されにくく、乳腺内に母乳が滞ることで炎症が起こりやすいのです。さらに、乳頭部分に母乳や皮脂が残りやすいため、細菌感染のリスクも高まります。
今回の記事では、乳腺炎の原因や種類、症状、予防法、治療法を詳しく解説しながら、「なぜ陥没乳頭の女性が乳腺炎になりやすいのか」「どのように完治へと導けるのか」をわかりやすくお伝えします。乳腺炎を繰り返す場合には根本的な原因である陥没乳頭の治療を検討することが大切です。
乳腺炎とは?乳腺炎になる原因

乳腺炎とは?
母乳をつくる乳腺に炎症が起こる病気です。授乳中の女性に多く見られますが、まれに授乳期以外の女性にも発症することがあります。
主な原因
- 1. 母乳のうっ滞(うっ積)
赤ちゃんが母乳をうまく吸えない、授乳回数が少ない、乳管が狭くなっているなどの理由で母乳が乳腺内に溜まり、炎症が起こります。授乳期の乳腺炎の多くはこの「うっ滞性乳腺炎」です。
- 2. 細菌感染
乳頭に傷がある場合や、乳頭に残った母乳から細菌(黄色ブドウ球菌など)が侵入することで感染性の乳腺炎を発症します。特に陥没乳頭は汚れがたまりやすく、感染の温床となりやすいのが特徴です。
- 3. 生活習慣の影響
過労・睡眠不足・ストレスは免疫力を下げ、乳腺炎のリスクを高めます。高脂肪食や甘いものの過剰摂取も母乳の粘度を上げ、乳管の詰まりを助長します。
陥没乳頭との関係
陥没乳頭は母乳の排出がスムーズにいかないため、乳腺炎の直接的なリスク因子となります。母乳が滞る→乳腺が炎症を起こす→感染が加わるという悪循環が起こりやすく、治療しても再発しやすい点が特徴です。
乳腺炎の種類と主な症状

乳腺炎は大きく分けて「うっ滞性乳腺炎」と「感染性乳腺炎」の2種類があります。
項目 |
内容 |
うっ滞性乳腺炎
(浸潤性乳腺炎) |
主因:母乳の排出不良
症状:乳房のしこり・張り・軽度の痛み、37〜38℃前後の微熱
特徴:授乳姿勢の工夫や搾乳で改善することが多い |
感染性乳腺炎
(化膿性乳腺炎) |
主因:細菌感染
症状:38〜40℃の高熱、悪寒、全身倦怠感、乳房の強い腫れと赤み
特徴:膿瘍が形成されると切開排膿が必要になることもある |
共通する主な症状 |
胸の強い痛みや腫れ
乳房が熱を持ち、赤く腫れる
母乳を吸わせようとすると激しい痛みが走る
発熱や悪寒などの全身症状 |
うっ滞性乳腺炎を放置すると、感染性乳腺炎に移行し重症化する可能性があります。特に陥没乳頭の方は悪化のスピードが早いため、早期対応が重要です。
乳腺炎の予防と対策・セルフケア

乳腺炎は「予防」と「早めのケア」が大切です。
- 授乳習慣の工夫
・こまめに授乳する:3時間おき程度に授乳し、乳房をため込まない
・赤ちゃんの吸着を改善:乳頭を深くくわえさせるよう助産師に指導を受ける
・授乳姿勢を変える:抱き方を変えることで、乳腺全体から母乳を排出しやすくなる
- マッサージ・温罨法
・授乳前に乳房を温めると血流が良くなり母乳が出やすい
・しこり部分をやさしくマッサージして詰まりを和らげる
- 生活習慣の見直し
・睡眠をしっかり確保する
・高脂肪食や甘いものを控え、バランスの良い食事を心がける
・水分補給を十分に行う
- 陥没乳頭のセルフケア
・授乳前に乳頭を軽く引き出す
・ニップルシールドや専用吸引器を活用する
・常に清潔を保ち、乳頭周囲に母乳や皮脂が残らないようにする
これらの工夫は乳腺炎の再発を防ぐだけでなく、授乳を続けるためにも有効です。
乳腺炎になりかけの症状・病院へ行く診察のタイミング

乳腺炎は、初期段階で早めに気づくことが大切です。なりかけの時には、胸の一部が赤くなったり、軽い痛みや熱感を覚えたりすることがあります。全身にまで熱が広がっていない場合でも、授乳中に乳首が詰まったような違和感やしこりを感じることもあります。これらは乳腺炎のサインであり、放置すると高熱や強い痛みにつながるため注意が必要です。
特に、38度前後の発熱が出た場合、乳房の一部が硬く腫れたり赤くなった場合には、できるだけ早めに病院を受診することが望ましいです。
Dr.三沢
診察のタイミングを逃すと、膿がたまり外科的な処置が必要になることもあります。授乳中の方は「少し様子を見よう」と我慢せず、早期の診察で悪化を防ぐことが重要です。
なりかけの症状(チェックリスト)
- 乳房の一部に赤みが出ている
- 授乳中や触れたときに軽い痛みや違和感を感じる
- 乳頭や乳房の奥にしこりのような硬い部分がある
- 乳房に熱感があり、触れると他の部分より温かい
- 授乳後も乳房がすっきりせず、つまり感が残る
- 全身のだるさや寒気を感じる(初期のサイン)
病院へ行く診察のタイミング(手順)
- 1. 軽度の違和感のみの段階
まずは授乳の姿勢や頻度を工夫し、乳房をよく空にするように心がける。
- 2. 赤みや痛み、しこりがはっきりしてきた段階
自宅ケアだけに頼らず、できるだけ早めに病院を受診。
- 3. 発熱(38℃前後)や強い痛みがある段階
速やかに婦人科や乳腺外来を受診。抗生物質や処置が必要になる場合がある。
- 4. 膿がたまっている可能性がある場合(強い腫れ・熱・膿の分泌)
緊急性が高いため、迷わず医療機関を受診することが望ましい。
このように「症状のチェックリスト」と「診察のタイミング」を段階的に示すことで、ご自身の状況を把握しやすくなり、早めに適切な医療にかかる判断がしやすくなります。
乳腺炎の治し方・治療法

乳腺炎は「症状の重さ」によって治療方法が異なります。
軽症(うっ滞性乳腺炎)
- 授乳回数を増やす
- 搾乳して乳房を空にする
- マッサージや温罨法で詰まりを解消する
- 安静・水分補給
中等症〜重症(感染性乳腺炎)
- 抗生物質投与:細菌感染の原因を抑える
- 解熱鎮痛剤:痛みや高熱を軽減
- 切開排膿:膿瘍ができた場合は外科処置が必要
陥没乳頭による再発防止
- 切らない陥没乳頭矯正:吸引器や特殊器具で乳頭を外に出す方法
- 形成外科での手術:乳管を温存しながら乳頭を整える方法。授乳機能を残せる手術法もあります
- 早めの相談が大切:授乳中でもできる処置があるため、形成外科や母乳外来に相談しましょう
エムズクリニックの切らない陥没乳頭治療

乳腺炎を繰り返す背景には、陥没乳頭が関係しているケースが少なくありません。
乳頭が凹んでいると母乳の出口がふさがれ、細菌感染が起こりやすくなるためです。そのため、根本的な治療を希望される方には、切らない陥没乳頭治療が有効です。エムズクリニックの治療は以下の特徴があります。
特徴 |
内容 |
陥没している乳頭を突出 |
乳頭の形態を整えつつ、乳腺炎の原因となる詰まりを解消します。 |
授乳が可能なように授乳機能を温存 |
乳頭の根元を傷つけない方法をとるため、母乳の通り道を残したまま治療が行えます。将来の授乳を希望する方にとっても安心できる治療です。 |
傷跡が目立たない |
治療後の傷跡が残らず、自然な見た目を保つことができます。見た目に配慮した治療法として、多くの女性に選ばれています。 |
見た目を良くして再発防止 |
乳頭が突出することで清潔を保ちやすくなり、乳腺炎の再発防止にもつながります。また、バランスの取れた乳頭の形態は見た目の改善にも大きく寄与します。 |
Dr.三沢
乳腺炎は、早めに気づき治療を受けることで重症化を防ぐことができます。しかし、陥没乳頭が原因で繰り返してしまう場合、根本的な解決のためには陥没乳頭の治療が必要です。
施術事例【20代 女性/陥没乳頭が原因で乳腺炎を繰り返し手術で改善】

陥没乳頭に悩んでいた20代女性の症例をご紹介します。思春期の頃から乳腺炎を何度も発症し、3回以上繰り返していたとのことです。陥没乳頭が原因で乳腺炎を再発し続けていたため、改善を目的に手術を受けられました。
陥没乳頭とは?
陥没乳頭とは、乳頭が皮膚の内側に埋もれて表面に出てこない状態のことをいいます。この形状では乳頭のくぼみに皮脂や老廃物が溜まりやすく、通気性が悪くなるため、細菌が繁殖しやすい環境になってしまいます。
10代から20代の若い世代でも、陥没乳頭によって乳腺炎を繰り返すことは珍しくありません。特に思春期以降は、女性ホルモンの分泌が増えて乳腺の働きが活発になることで、乳頭周囲からの分泌物も増加します。
その結果、炎症が起きやすくなり、乳腺炎のリスクが高まります。一度かかると再発を繰り返す場合もあるため、注意が必要です。

繰り返す乳腺炎は、乳房の腫れや強い痛み、発熱といったつらい症状を引き起こすだけでなく、乳腺そのものにダメージを与えることがあります。さらに、将来的な授乳への支障や、炎症の慢性化による膿瘍形成、重症化すると切開手術が必要になる可能性もあるため、早期の治療が大切です。
陥没乳頭を予防するには日常的な清潔の維持が基本ですが、根本的な改善には外科的な矯正手術が有効です。最近では美容面にも配慮した低侵襲の手術が主流で、傷跡がほとんど残らず、術後の生活にも支障が出にくいという特徴があります。
手術の経過・手術直後


手術中の確認では、乳頭が内部に陥没していた部位に「瘻孔(ろうこう)」と呼ばれる感染の通り道が形成され、膿が乳輪の赤みのある部分を通って排出されていることがわかりました。これは慢性的な炎症によるもので、自然に治ることは難しい状態です。
Dr.三沢
今回の症例では、陥没乳頭形成術を行い乳頭がしっかり突出し、瘻孔も消失しました。術後は乳腺炎の再発もなく、良好な経過をたどっています。
よくあるご質問
乳腺炎になりやすい人の特徴は?
乳腺炎は授乳中の女性に起こりやすいトラブルで、特定の傾向を持つ方に多く見られます。代表的な特徴は以下の通りです。
・母乳の分泌が多いタイプ:母乳が十分に作られているにもかかわらず、吸い残しがあったり、授乳の間隔が空きすぎたりすると、乳管内に母乳が溜まりやすくなります。
・授乳姿勢や吸わせ方に偏りがある人:赤ちゃんが深く吸えず乳頭に傷ができやすい場合、そこから細菌が侵入し炎症を引き起こすことがあります。
・免疫力が落ちている人:産後の疲労、睡眠不足、精神的なストレスは免疫を下げ、感染型乳腺炎につながるリスクを高めます。
・体質的な要因:乳管が細い、乳頭が陥没している、母乳の流れがスムーズでないなどの体質的な特徴も関与します。
こうした要素が複合すると乳腺炎を発症しやすくなるため、「私はなりやすいタイプかもしれない」と感じる方は、早めのセルフケアや授乳指導を受けると予防につながります。
乳腺炎になりかけの場合、マッサージは有効ですか?
しこりのような硬さや軽い痛み、熱感が乳房の一部に出始めたら「乳腺炎のなりかけ」のサインです。この段階でのマッサージは、母乳の流れを促進し症状を悪化させないために役立ちます。ただし、注意点があります。
・乳房を温める:授乳や搾乳の前に蒸しタオルや温シャワーで温めると乳管が開き、母乳が流れやすくなります。
・優しくほぐす:乳頭方向に向かってやさしく圧をかけ、しこり部分をなでるように行います。強く押すと炎症を悪化させたり、乳腺を傷める恐れがあります。
・授乳と組み合わせる:マッサージ後に赤ちゃんに吸ってもらうことで、詰まりがスムーズに解消される場合があります。
「なりかけ」でのケアは効果的ですが、発熱や強い痛みが出ている段階では自己流のマッサージは逆効果となることもあるため、無理は禁物です。
乳腺炎でも授乳していいでしょうか?
多くの場合、乳腺炎であっても授乳は継続して問題ありません。むしろ母乳をしっかり排出することが症状の改善につながります。
・母乳の排出が治療につながる:乳腺炎の原因の多くは「乳汁のうっ滞」なので、母乳を外に出すことが改善の第一歩です。
・赤ちゃんへの影響:細菌感染があっても母乳そのものが危険になることはほとんどなく、授乳を中断する必要は基本的にありません。
・どうしても授乳が難しい場合:強い痛みや高熱で授乳が困難なときは搾乳で代用できます。手搾りや搾乳器を活用し、できるだけ母乳をため込まないことが大切です。
ただし、乳頭の傷がひどく血が混じる場合や、膿が混じるような状態では一時的に授乳を控えることもあります。その判断は自己判断ではなく、必ず医師に相談しましょう。
乳腺炎はすぐに病院に行くべきですか?何科に行くのが良いですか?
乳腺炎は初期の段階で適切に対処できれば自然に改善することもありますが、以下のような症状がある場合は早急に病院を受診すべきです。
・38度以上の高熱が出ている
・乳房の痛みや赤みが強く、悪化している
・膿のような分泌物が見られる
・マッサージや授乳を続けても改善しない
受診に適した診療科は 産婦人科 もしくは 乳腺外科 です。産後すぐであれば産婦人科のほうが相談しやすく、母乳外来を併設している病院では助産師によるケアも受けられます。断乳後や再発を繰り返す場合、乳腺外科での精密な検査・治療が有効です。
乳腺炎は放置すると膿瘍(のうよう)に進行するリスクがあり、切開・排膿などの処置が必要になることもあります。したがって、「様子を見ていいのか」「今すぐ行くべきか」と迷った時点で、早めに医療機関に連絡することが安心につながります。
まとめ
- 乳腺炎は授乳期女性にとって非常に身近でつらい疾患ですが、正しい知識と対策で予防・改善は可能です。特に陥没乳頭を持つ方は母乳が滞りやすく、繰り返す乳腺炎の原因となりやすいのが現実です。
- セルフケアや授乳習慣の改善である程度防げますが、何度も再発する場合は「陥没乳頭そのものの治療」が必要となります。形成外科や専門クリニックでの治療により、乳腺炎の再発を防ぎ、快適な授乳生活を送ることができます。
- 陥没乳首による乳腺炎を完治したいなら、セルフケアや一時的な治療だけでなく、根本的な陥没乳頭治療を検討することが重要です。