
まぶたが重く垂れ下がり、視界が狭くなったり、肩こりや頭痛に悩まされたりする「眼瞼下垂症」。
最近では、10代から60代以上の方まで、年齢や性別を問わず治療を希望される患者様が非常に増えています。
眼瞼下垂症の根本的な治療には手術が有効ですが、手術を受けるにあたって「糸」に関する以下のような質問があります。
- 「まぶたの中を縫った糸は一生残るの?異物反応は出ない?」
- 「目をこすったりしたら、固定した糸が切れたり外れたりしない?」
- 「溶ける糸と溶けない糸、どちらを使うのが安全なの?」
眼瞼下垂症手術の成否や術後の持続期間、安全性を左右する最大の要素の一つが、この「糸の選択と固定技術」です。
まぶたは皮膚が非常に薄く、1日に1万回以上もまばたきをする特殊で繊細な部位だからこそ、内部で使用される糸には厳密な医療規格と高い耐久性が求められます。
手術を受ける前に「まぶたの中で糸がどのような役割を果たしているのか」「切れるリスクや体に残る影響はどうなのか」を正しく把握しておくことは、納得のいく治療を受け、術後のトラブルを防ぐために欠かせません。
今回の記事では、眼瞼下垂症手術に使用される縫合糸の真実について、徹底的に分かりやすく解説します。
まぶたの解剖は非常に緻密です。手術法の名称だけでなく、「どのような糸で、どの組織をどう固定するのか」まで事前にカウンセリングで確認する姿勢が、後悔のない治療への第一歩となります。
眼瞼下垂症手術に使われる糸とは?
眼瞼下垂症手術に使われる糸とは?
眼瞼下垂症の手術において、使用される糸には大きく分けて2つの明確な役割があります。
眼瞼下垂症手術では「まぶたの内部構造を強化・固定するための糸(中縫い)」と、「皮膚表面をきれいに縫合・閉鎖するための糸(外縫い)」の2種類が明確に使い分けられています。
なぜなら、まぶたの皮膚表面と内部の筋肉・腱膜組織では、求められる物理的強度、生体適合性、組織にかかるテンションが根本的に異なるためです。皮膚表面は傷跡を最小限に抑えて1週間程度で抜糸しますが、内部の固定は半永久的に組織同士を引き留め続けなければなりません。
眼瞼下垂症の手術において使用される主な糸の種類と役割は以下の通りです。
内部固定用の糸(非吸収性ポリプロピレン糸・ナイロン糸など)
- まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋・挙筋腱膜)を瞼板(まぶたの縁にある硬い軟骨のような組織)に縫い留める
- 非常に細い(髪の毛よりも細い0.07mm〜0.05mm程度)が、破断強度が極めて高い
- 体内に埋め込まれたまま抜糸せず、一生涯組織を支え続ける
皮膚縫合用の糸(ナイロン糸・PVDF糸など)
- 切開した皮膚の断面をぴったりと寄せて傷跡を目立ちにくくする
- 術後5〜7日程度で抜糸するため、体内に残ることはない
- 組織への刺激が最も少ないモノフィラメント(単繊維)が選ばれる
皮下組織の補強用の糸(吸収性縫合糸:PDSやバイクリルなど)
- 止血補助や脂肪組織の仮固定など、限定的な補助ステップで使われることがある
- 数週間〜数か月かけて徐々に体内に吸収・分解される
このように、まぶたの構造と手術の目的に合わせ、数ミクロン単位の厳密な規格管理がされた医療用縫合糸が適材適所で組み合わされています。
「ただ縫い合わせているだけ」ではなく、内部の骨組みを補強する糸と外側の美しさを保つ糸が緻密に使い分けられているのです。
術後の腫れや傷跡の仕上がりは、皮膚を縫う糸の細さ(通常6-0〜7-0と呼ばれる極細糸)と、内部を固定するテンションの調整に大きく左右されます。繊細なマイクロサージェリーの技術を持つ医師を選ぶことが大切です。
挙筋腱膜固定に使う糸 エチコン社のプロリーン(PROLENE)

挙筋腱膜前転法をはじめとする眼瞼下垂症手術の要(かなめ)となる「挙筋腱膜の固定」において、形成外科・美容外科の現場で圧倒的なゴールドスタンダードとして支持されているのが、ジョンソン・エンド・ジョンソン(エチコン社)の「プロリーン(PROLENE)」です。
挙筋腱膜固定にはエチコン社のプロリーン(ポリプロピレン縫合糸)を使用することが、長期的な機能維持と安全性において極めて優れています。
その理由は、プロリーンが持つ以下の突出した物性にあります。
- 半永久的な抗張力(引っ張り強度)の持続
プロリーンは生体内で加水分解を受けず、酵素による分解も受けません。まぶたは1日に約1万5,000回から2万回ものまばたきを繰り返すため、糸が経年劣化で脆くなってしまっては意味がありません。プロリーンは何十年体内に埋め込まれていても強度がほとんど低下しません。
- 生体反応(異物反応)が極めて低い
合成ポリプロピレンから作られた単繊維(モノフィラメント)であるため、周囲の組織に対するアレルギー反応や肉芽形成(しこり)、慢性炎症を極めて起こしにくい特徴があります。
- 細菌の繁殖を防ぐ構造
糸の表面が極めて滑らかで、かつ編み込み構造のない単一の糸であるため、細菌が潜り込む隙間(キャピラリー現象)がありません。これにより、術後の感染リスクを最小限に抑えられます。
- 組織を傷つけない柔軟性と結紮(けっさつ)保持力
適度な伸びと弾力性があり、筋肉が動いた際にも組織への食い込み(チーズワイヤリング現象)を防ぎつつ、しっかりとした結び目を維持できます。
臨床の現場において、プロリーンがどのように機能しているか具体例を挙げましょう。
例えば、手術から10年、20年が経過した患者様が別のまぶたの治療を受けられる際、まぶたの内部を展開すると、数十年前に入れたプロリーンが当時と変わらない青い鮮やかな色のまま、全く緩むことなく腱膜と瞼板をしっかりと繋ぎ止めている姿を日常的に確認します。糸の周囲にも不要な炎症組織は形成されず、まるで身体の一部として安定して共存しています。
心臓血管外科で血管同士を繋ぐ命に関わる縫合にもプロリーンが第一選択として使われている事実からも、その信頼性の高さが伺えます。
したがって、眼瞼下垂症手術において半永久的にまぶたをパッチリと持ち上げ続けるためには、エチコン社のプロリーンのような高機能・高耐久性の非吸収性糸で挙筋腱膜を固定することが最も理にかなった選択と言えます。
眼瞼下垂症手術後に、糸が切れる・外れることはある?

「手術後に糸がプチッと切れたり、固定が外れてしまったりすることはないのですか?」というご質問は、カウンセリングで最も頻度の高い質問の一つです。
「糸そのものが切れる」ことは物理的に極めて稀ですが、「糸が固定されている組織(腱膜や瞼板)から外れる・緩む」ことは、一定の確率で起こり得ます。
なぜなら、手術に使われるプロリーンなどの医療用糸は非常に頑丈で、人のまぶたの筋力程度で糸自体が破断することは力学的にほぼ不可能です。しかし、糸が縫い留められている人間の生体組織(筋肉や腱膜、軟骨組織)は柔らかく繊細です。強い外力や強い引っ張りが加わると、糸が組織を引き裂いて通り抜けてしまう「裂開(れっかい)」や、結び目が組織をすり抜ける現象が生じるためです。
糸が外れたり緩んだりする主な原因と、それを防ぐための注意点は以下の通りです。
術後の強い機械的摩擦(目をこする行為)
- アレルギー性結膜炎、花粉症、アトピーなどで目を強くゴシゴシこすると、固定部に瞬間的に強いテンションがかかり、組織から糸が抜けてしまう原因になります。
術後早期(1〜3か月以内)の過度な負荷
- まぶたの内部で組織同士がしっかりと自然癒着(線維性の結合)を完了するまでには約1〜3か月かかります。この期間にクレンジングで強く皮膚を引っ張ったり、激しいコンタクトレンズの着脱を行ったりすると外れるリスクが高まります。
加齢や組織の脆弱化
- ご高齢の方や、長期にわたるハードコンタクトレンズ装用歴がある方は、挙筋腱膜自体が薄く脆くなっている(菲薄化)ケースがあります。この場合、医師が適切に組織の厚い部分を選んで縫合しないと、術後に緩みが生じやすくなります。
医師の縫合技術と固定強度の問題
- 瞼板への糸の通し方が浅すぎたり、腱膜の把持が不十分だったり、結び目の締め具合(ノットの結束)が適切でない場合、術後早期に外れてまぶたが再び下がってくることがあります。
もしも糸が外れてしまった場合、「突然まぶたが重くなって開かなくなった」「左右差が急激に大きくなった」「二重のラインが完全に消失した」といった自覚症状が現れます。
糸そのものの破断を恐れる必要はありませんが、「組織が糸から外れるリスク」は現実に存在します。だからこそ、術後のアフターケアを遵守することと、組織の厚みを見極めて確実に固定できる熟練の専門医による執刀が極めて重要になります。
患者様ご自身がまぶたの構造とリスクへの理解を深めて手術に臨むことが、長期的な満足度につながります。
術後1か月間は、洗顔やスキンケアの際に「触れるときはフェザータッチ(羽が触れる強さ)」を徹底してください。目を強くこすらない意識を持つだけで、糸の外れや緩みのリスクは大幅に低減できます。
溶ける糸・溶けない糸の違い、眼瞼下垂手術は糸が残ることは問題ない?

眼瞼下垂手術を検討中の方から、「異物が一生体に残るのが怖いので、溶ける糸で手術してほしい」というご要望を受けることがあります。
眼瞼下垂症手術の内部固定(挙筋腱膜前転など)において、溶けない糸(非吸収性糸)がまぶたの中に一生残ることは、医学的に全く問題ありません。むしろ、溶ける糸を使うことの方が長期的な機能面で大きな問題を引き起こします。
その理由は、組織の生体力学と異物反応のメカニズムを比較すれば明白です。
- 溶ける糸を使った場合、高確率で眼瞼下垂が再発する
溶ける糸(吸収糸)は、数週間から数か月で生体内で分解され、最終的に強度がゼロになります。筋肉と腱膜を強固に保ち続けるためには、まばたきという毎日の激しい運動負荷に一生耐えうる保持力が必要です。自然な線維性癒着だけに頼ると、やがて組織が伸びてまぶたが再び下がってしまいます。
- 溶けない糸(プロリーン等)は体内で「完全に不活性」である
現代の医療用ポリプロピレン糸は、人体にとって完全に中立(生体不活性)な素材です。アレルギーを起こさず、腐食もせず、組織を刺激することもありません。体内に入るとごく薄いコラーゲンの膜(被膜)で静かに包まれ、人体と調和した状態で安定化します。
溶ける糸と溶けない糸の特徴を比較すると、以下のようになります。
「異物が体内に残る」と聞くと心理的な抵抗感を覚えるかもしれませんが、人工関節や心臓の血管ステント、ペースメーカーなどと同様に、現代の医療では生体適合性の高い素材が安全に体内で一生涯使われています。眼瞼下垂症手術の糸もこれらと同様の安全性基準をクリアしています。
万が一、術後に「糸が皮膚から透けて青く見える」「糸の結び目がポコッとまぶたの裏や表に触れる」といった違和感が生じた場合でも、局所麻酔による簡単な小処置で糸の位置を修正したり、抜去・再固定したりすることが可能です。
したがって、体内に糸が残り続けることを過度に恐れる必要はありません。むしろ、まぶたの開きを一生涯しっかりと支え続けるために、安全性の確立された「溶けない糸」が意図して体積・重量ともに極小の状態で残されているのだとご理解ください。
埋没法(皮膚を切らない手術)と切開法では糸の留まり方が異なります。切開法による挙筋腱膜前転術では、糸は組織の深い層に埋没されるため、皮膚表面から異物として触れたり露出したりするトラブルは極めて稀です。

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まとめ
眼瞼下垂症手術における「糸」は、単に傷口を塞ぐ道具ではなく、まぶたの開閉機能を長期にわたって支え続ける極めて重要な内部構造の一部です。
本記事の重要ポイントを振り返ります。
- 眼瞼下垂症手術では2つの糸を使い分けている
体内に残して筋肉を支え続ける「内部固定の糸」と、術後5〜7日で抜き取る「皮膚縫合の糸」が厳密に使い分けられています。
- 挙筋腱膜固定にはエチコン社のプロリーンが最適
心臓外科でも使われる世界標準のプロリーン(ポリプロピレン糸)は、経年劣化せず、生体反応が極めて低いため、半永久的に安全にまぶたを支えます。
- 糸そのものは切れないが、組織から外れることはある
糸自体の耐久性は非常に高いものの、術後に強く目をこすったり、医師の固定位置が不適切だったりすると、組織から糸が外れて再発するリスクがあります。
- 糸が体内に残ることは医学的に極めて安全
溶ける糸を使うと眼瞼下垂の再発リスクが高まります。安全性が確立された溶けない糸が体内に留まり続けることで、若々しく明るい視界が安定して維持されます。
眼瞼下垂症手術を成功させ、術後何年、何十年と快適な視界を保ち続けるためには、「手術で使う糸の種類や固定の仕組みについて、事前に詳しく知ってから適切に手術を受ける」という意識が何よりも大切です。
「どのような手術法で行うのか」「どのような糸を使ってどのように固定するのか」「万が一外れたり緩んだりしたときのアフターフォローはどうなっているのか」を、診察室でドクターにしっかりと質問し、ご自身が心から納得した上で手術に臨んでください。正しい知識を持つことが、あなたのまぶたの健康と理想の目元を守る最大の武器になります。