診療をしていると、
患者さんからの質問で
「私は、切らなければダメですか!?」
「眉毛の下を切開するのはどういった場合ですか?」
など、
眼瞼下垂症とは
眼瞼下垂とは、上まぶた黒目にかかった状態のことをいいます。
見えにくい、まぶたが重い、頭痛、肩こり、うつ症状を呈するなど、
生まれつきまぶたが開きにくい状態を先天性眼瞼下垂といい、時間(加齢)とともに症状が悪くなってくる後天性眼瞼下垂に分けられます。
下垂(まぶたが下がった)の状態や重症度によって、以下に紹介する治療法・術式が選択されます。
・埋没法
・余剰皮膚切除
・挙筋群前転法
・経結膜的挙筋前転法
・筋膜移植術
埋没式とは?
埋没法という方法を聞いたことがあるかと思います。埋没法とは糸のみで行う方法です。
皮膚を切らないで行うことができる方法です。
したがって、埋没法は侵襲(ダウンタイム)が少ないのが最大の特徴です。
ダウンタイムとは、腫れや内出血などが生じている期間をいいます。
適応としては、症状が軽度の場合です。
ダウンタイムが少ないので、多くの方がこの術式を求められますが、無理に行うと、かえって症状が悪化する恐れがあります。
余剰皮膚切除とは?
余剰皮膚切除が適応になる症例は偽性眼瞼下垂と呼ばれる方です。
偽性眼瞼下垂
外側の皮膚が垂れ下がり、黒目全体が隠れている状態です。
「まぶたが重くて目が開けづらくなってきて・・・」という方の目の多くで上写真のように皮膚が垂れさがっている状態の方がいます。
こういった方の場合、まぶたの皮膚を上げると黒目がしっかり見えます。これを偽性眼瞼下垂と呼びます。
一方、真の眼瞼下垂(挙筋機能が低下している状態)では同じようなことをしても、まつ毛がひっくり返るだけでまぶたは上りません。
偽性眼瞼下垂では、黒目に覆っているのは余った皮膚です。皮膚がなければ見えにくさやまぶたの重たさなどは軽減されます。
皮膚を切除することで症状改善とします。
皮膚をとる方法としては、以下に示す①~③の方法があります。
① 睫毛上切開
② 眉下皮膚切開
③ ダイレクトブローリフト
①~③は皮膚を切除するアプローチの部分となります。
① 睫毛上切開
真の眼瞼下垂(挙筋機能が低下している)では①でアプローチを行います。
真の眼瞼下垂
①で行う余剰皮膚切除の切除できる皮膚は限られています。最大は5mm程度かと思われます。
それ以上に切除すると二重幅が厚ぼったくなったりします。というのは、上まぶたの皮膚は眉毛に近くなると厚くなり、まつ毛近くなるほど薄いからです。
その間の皮膚を切除すると、眉側の厚い皮膚とまつ毛側の薄い皮膚が重なることになります。段差が生じてしまうのです。
② 眉下皮膚切開 、 ③ ダイレクトブローリフト
皮膚が多いことで黒目を覆ってしまう偽性眼瞼下垂では、改善するのに皮膚を多めにとる必要があります。
①で取れる皮膚は限られているので、②もしくは③でアプローチを行います。② or ③の違いは別項で詳しくご説明をしますが、簡単にいえば眉毛下垂といって眉毛の位置が低い方がいます。
そのような方では、眉毛自体をあげる必要があるので③を選択します。
ほとんどのケースで余剰皮膚切除を行うのは②のアプローチです。
挙筋群前転法
挙筋群というのは眼瞼挙筋とMuller筋のことをいいます。下図を参照してください。
眼瞼下垂症では挙筋群の低下を引き起こした結果、上まぶたが下がる現象が起きます。
挙筋群の低下は様々ですが、原因としては腱膜の菲薄化(薄くなってしまった)、伸びたり、切れてしまったり、癒着によって滑りが悪くなったり、などあげられます。
これらの原因で挙筋群は結果として目の後方に引き下がった状態になります。したがって、これら筋群を前に出して元の位置に戻してあげる、これを挙筋前転といいます。
挙筋群前転には3通りの方法があります。
① 挙筋腱膜前転固定法
② Muller筋タッキング法
③ 挙筋群(挙筋腱膜+Muller筋)前転固定法
① 挙筋腱膜前転固定
挙筋腱膜前転固定とは、弛んだ腱膜のみを瞼板に固定する方法です。理論的には自然な形で修復する手術法です。
伸びたり、切れたり、弛んだりした腱膜を元の状態に回復させてあげるので直感的には自然です。ただし、眼瞼挙筋が正常であるということが前提です。
長期にわたり眼瞼挙筋自体が萎縮したり機能をしていない場合は、力を出す筋肉自体が問題なのでその先にある腱膜を元に戻したとしても、挙筋機能の回復は見込めないということになります。
② Muller筋タッキング法
タッキングとは、ズボンなどのタックを連想していただければと思います。ズボンのタックのように筋肉を折り縮めるようなイメージです。
まぶたの表側からと裏側からと行えることができます。Muller筋には眼瞼挙筋と違って筋膜(腱膜)がないので筋肉自体を縫い縮めることになります。
先に紹介した①挙筋腱膜前転固定法と②Muller筋タッキングのどちらを選択するのか術者による傾向にあります。
これに関しては意見が分かれており、学会等でも決着はついてない状態です。
③ 挙筋群(挙筋腱膜+Muller筋)前転固定法
挙筋群(挙筋腱膜+Muller筋)前転固定法は、①+②を複合として行う方法です。
①の挙筋腱膜前転固定でも改善(眼瞼の挙上)が認められない場合と、最初から挙筋群として行う場合があります。これも術者の判断による場合が多いです。
経結膜的挙筋前転法
経結膜的とは、まぶたの表ではなく裏側から行うこと示します。
標準的に行う眼瞼下垂症手術ではまぶたの表側から行いますが、経結膜的挙筋前転法はまぶたの裏側から挙筋群を前転固定します。
利点としては皮膚を切らないで行うので、術後の出血や腫れが少ないのが大きな特徴です。しかし、適応が限られています。ほとんどのケースで美容外科で行う場合が多いです。
筋膜移植術
筋膜移植は、重度の眼瞼下垂で行う術式です。重度というのは先天性(生まれつき)の場合がほとんどです。
生まれつきの眼瞼下垂=先天性眼瞼下垂症では挙筋群(眼瞼挙筋、Muller筋)ともに機能がほとんど認められません。その場合は前頭筋といって、おデコの筋肉をつかって(このことを代償といいます。)まぶたを上げています。
筋膜移植で使用する筋膜は、側頭筋膜や大腿筋膜を使用します。側頭筋膜とは側頭部といって耳の上にある頭の横にある筋肉を包んでいる膜です。
噛むと耳の上がピクピク動くかと思います。それが側頭筋です。一方、大腿筋膜とは、太ももの筋肉を包んでいる膜です。これらの一部を採取します。
筋膜移植とは、側頭筋もしくは大腿筋膜を前頭筋とまぶたの先である瞼板に固定して、おデコの力でまぶたを上げるように改善します。
眼瞼下垂の手術法 まとめ
眼瞼下垂症手術には色々な治療法・術式があります。
まぶたの状態:真の眼瞼下垂なのか?偽性眼瞼下垂なのか?また、まぶたの上がり具合(重症度)に応じて治療法を選択する必要があります。
・埋没法・・・軽度の眼瞼下垂症で行えます。皮膚を切らないで、糸のみで行う方法です。
・余剰皮膚切除・・・偽性眼瞼下垂症で適応になります。余剰皮膚を切除するアプローチとして、①睫毛上、②眉下、③眉上がありますが、ほとんどのケースで②の眉下を行うことが多いです。
・挙筋群前転法・・・真の眼瞼下垂(挙筋機能の低下を呈している状態)で行います。① 挙筋腱膜前転固定法、② Muller筋タッキング法、③ 挙筋群(挙筋腱膜+Muller筋)前転固定法があります。どの術式を選択するかは術者によります。
・経結膜的挙筋前転法・・・皮膚を切らないで、まぶたの裏側から行う方法です。ダウンタイムが少ないので、通称『切らない眼瞼下垂』と呼ばれています。多くの場合は美容外科で行われています。適応も限られいます。
・筋膜移植術・・・側頭筋膜や大腿筋膜を用いて行う術式です。先天性の場合で行われることがほとんどです。