まぶたに左右差のある方からよく
「片方だけ手術したらいいですよね!?」
と、よく問われることがあります。
片側の眼瞼下垂症の場合、片方を治療するのは当然なのですが・・・、両方と比較して難しい場合があります。
そこで、今回は片方のみのまぶたが下がった眼瞼下垂治療をする上で、知っておくべきことご紹介したいと思います。
それが『ヘリングの法則』です。
眼瞼下垂とは?
眼瞼下垂とは、目を開けても上まぶたが下がってしまい、上まぶたが黒目にかかっている状態です。
生まれつき(先天性)とコンタクレンズや加齢などで起こる(後天性)ものに大きく分けられます。
症状としては、まぶたが重い、見えにくい(視野障害)などの症状を伴います。
眼瞼下垂の原因
眼瞼下垂の原因は様々ですが、大きく分けて二つに分類されます。
先天性眼瞼下垂
後天性眼瞼下垂
- 加齢性(老化)
- コンタクレンズ
- アトピーなどのアレルギー性
- 神経・筋肉の異常を起こす疾病によるもの
- 外傷などによる目の周りのケガ
- 目の周りの美容外科治療(ボツリヌス菌毒素注射や埋没法などによるもの)
眼瞼下垂の治療
眼瞼下垂の治療では、ごく軽度の場合に点眼薬などを使用する場合もありますが、基本的には手術治療となります。
手術内容としては、軽度〜重症に至るまで様々な方法がありますが、以下にあるものが代表的な手術治療の名称となります。
- 埋没法
- 挙筋群前転法
- 眉下皮膚切除
- 側頭筋膜移植術
などです。
左右差のある眼瞼下垂治療
左右差のある眼瞼下垂症を片側性眼瞼下垂といいます。それに対して両方のまぶたが下がっているものを両側性眼瞼下垂といいます。
片側であろうが、両側であろうが、基本的には上記の手術法を選択して行います。もちろん眼瞼下垂の重症度やまぶたの状態に応じて治療法を選択します。
手術の難易度としては、両側性に比べて片側性の手術の方が困難です。それは後述するヘリングの法則も含めて、両方のまぶたのバランスを整えることが難しいからです。
両側性の場合、両方同時に行うことで、左右のバランスを整えることが可能です。
しかし、片側のみを治療する場合は、もう片方を調整することができません。一方のみの調整でもう一方に合わせるようにします。一見簡単なように思えても、実際行うことは大変困難です。
ヘリングの法則とは?
へリングの法則について
へリングの法則とは、実は脳神経学で用いられる用語です。
片側性眼瞼下垂(片方のみの眼瞼下垂)で起こる「へリングの法則」とは、結論から話すと、、
『片方、例えば右側の眼瞼下垂を治療すると、正常と思われたもう一方の左側が下がる』ということです。
脳の問題なのですが、脳自体に障害や問題があるということではないので、安心してください。順に追って説明します。
そもそも、我々は脳の制御によって目を開いたり、閉じたりしていることはご存知かと思われます。
目を閉じる行為は脳が指令を出して行います。そして、目を閉じることは左右別々に行うことができます。
例えば、ウィンクです(まれにウィンクができないで両方つむってしまう方もいらっしゃいますが、笑)。ウィンク=まぶたを閉じる機能は、眼輪筋といいう目の周りにある筋肉が収縮して行えます。
そして、眼輪筋は顔面神経という神経が支配しています。顔面神経の場合は左右に対称的に存在しており、別々に動かすことが可能なのです。だから、ウィンクが可能なのです。
*ウィンクができないからといって、顔面神経に問題があるということではないので、安心して下さい。
一方、まぶたを挙げる=目を開く機能は、眼瞼挙筋という筋肉とMuller筋(ミューラー筋)という二つの筋肉が関与しています(これらに関しては別の機会にご説明したいと思います)。
それらの筋肉を支配する神経は、それぞれ動眼神経と自律神経という別々の神経です。目を開ける場合には、この二つの神経が複雑な神経回路を形成しています。
そして、その結果として目を開けるときには片方だけを大きく開けたり、片方を小さくしたりとすることは難しいのです。
例えば、鏡を写った自分の顔をご覧ください。目をおおきく見開いてください。
どうでしょうか?
片方だけ大きく、片方だけ小さくすることはできるでしょうか??
目を見開いた時には、両方を同じだけ開かれるのがお分かりかと思います。
まとめると、ヘリングの法則とは、
左右の目は同じように開けることしかできない
ということです。
片方の眼瞼下垂で起ったヘリングの法則 ハードコンタクト装着例
ここまでで、ヘリングの法則はなんとなくお分かりになったかと思います。
これからは実際経験したケースについて、写真を供覧しながら説明したいと思います。
症例:50代 男性 30年以上にわたるハードコンタクレンズ装着歴+、右片側眼瞼下垂
*このケースに関して詳しいことを追記すると、ハードコンタクトレンズ 性眼瞼下垂は両方コンタクトレンズを装着してしているため、通常は両方のまぶたが障害されます。
稀に片方だけしかつけないという方もいてその場合は純粋な片側眼瞼下垂となります。
今回のケースでは左に比べ、右の障害が進行した方でした。仕事上の都合で片側ずつ治療を行いました。
まずは、実際の両側のまぶたをご覧ください。
治療前
左に比べると右側(写真向かって左側)の目が小さいのがわかるかと思います。
*眼瞼下垂の診断は、上まぶたが瞳孔(白く光っている部分)にどれだけかかっているかで診断します。これをMRDといいます(MRD=Marginal reglex distanceの略です)。
右目は黒目の大きさが正円の2/3位の大きさになっているがわかります。
そして、右側のみの治療を行いました。
右側眼瞼下垂治療直後
いかがでしょうか?
右の黒目の状態を、治療前と比較してください。
そして、左側をご覧ください。
心なしか左小さくなった・・・?
という印象ではないでしょうか??
それでは詳しく見てみましょう。
左目の治療前と治療後の比較
こう見るとハッキリと分かりますね!?
直後の左目の黒目が治療前に比べ、小さくなりました。
そして、二重まぶたの線が増えて、太くなったのが分かります。
これがヘリングの法則に従って、左目の下垂が現れたということになります。
ヘリングの法則と片側眼瞼下垂症
では、ヘリングの法則が片側眼瞼下垂治療を行なった時になぜ起こるのか?という現象を「シーソー」を使って説明します。
治療前は上記のような状態です。
右のまぶたが下がっています。それは脳も感じています。ですから、脳は司令を出します。
『がんばれ!』と、
でも、『右!下がっているからもっと上げて!!』と思っても片方だけに指令を出すことは残念ながらできません・・・、
よって、脳は、『右も左も両方がんばれ!!!』といって指令をだすのです。
そして、右を治療した結果・・・、
脳は、『右、がんばったね!もう右、左、両方ともがんばらなくていいよ~~~』
となり、
まるでシーソーをしていた片方がいきなり降りた感じのような現象が起こるのです。
(突然降りられる、ドスんと落ちますよね。。。あれです。)
左右差のある眼瞼下垂 まとめ
ここまでの説明でお分かりになっていただけましたでしょうか?
~へリングの法則と片側眼瞼下垂との関係性~
脳神経学も絡んだ内容なので、ちょっと分かりづらい内容かもしれません。
まとめると、
・目の開きの調整は片方ずつ行うことはできない、それをへリングの法則という。
・片側眼瞼下垂ではへリングの法則に従い、もう片方のまぶたが落ちる=下垂することがある。
ということになります。