『背中に違和感がある、大きなしこりがある、できものがある』といった背中にできた腫れに気づいた時は、悪性ではないのかなど、心配になる方もおられるでしょう。
おでこにできることもありますが、粉瘤(アテローム)の好発部位である背中は、自分自身では見えない箇所のため、気づいたときには大きくなっていたり、気づかないことも多々あります。
ときには肥大化したり、炎症を起こして痛みを伴ったり、病院で摘出したあとでも再発するケースも見られます。
今回は、そんな方のために、再発しないための治療や炎症を起こした場合の治療法もご紹介します。
粉瘤(アテローム)とは
粉瘤は通称:アテロームと呼ばれ、表皮嚢腫という皮下にできる良性腫瘍(デキモノ)です。
粉瘤は、無症状のことが多く、直接的な健康被害がないため、多くの方々が放置される疾患です。
主な原因・放置することのデメリット
粉瘤ができるはっきりとした原因は、残念ながら分かっていませんが、ケガなどの外傷で発症するとも言われています。
皮膚のデキモノなので、体のどこに発症しても不思議ではなく、顔や背中に発症することが多いです。また、一個できる人は、背中など、他の部位にも同時に多発することあります。その人のもった皮膚の性状=体質に依存するという可能性があります。
皮膚の小さなしこり、腫瘍であるため、少しずつ大きくなっていき、大きくなっていくにつれて袋が破れて内容物が漏れ出ることがあります。
放置することで炎症が起きて痛みを伴ったり、皮膚の回りに存在する細菌が感染を起こして2〜3倍の大きさに腫れ上がってしまうことがあります。多量の膿が貯留して痛みを増して、熱を持つことになります。
治療のタイミング・炎症を引き起こした場合
粉瘤は腫瘍であるため、時間経過とともに増殖し、大きくなります。その過程で破裂し、細菌による二次感染を炎症を引き起こすことがあります。そういった場合には痛みを伴います。その痛みによる炎症は、日常生活に支障が出ることもあるので、炎症を起こす前の状態(=粉瘤の状態)で手術可能である医療機関の早期受診を強く推奨します。
また、炎症を起こした粉瘤を炎症性粉瘤と言います。粉瘤と炎症性粉瘤は全く異なる病態です。
炎症を起こすと、通常の粉瘤でおこなう根治手術をすることができません。炎症性粉瘤の治療原則は、抗炎症薬及び抗菌薬投与による経過観察です。その理由は以下となります。
炎症を起こした場合の抗菌薬投与をする理由
- 1. 殆どのケース(80〜90%)で内服加療が奏効する
- 2. 内服加療後、時間経過とともに膿瘍が消失、もしくは、痛みを伴わず自壊する
- 3. 炎症が伴う場合のケースでは、麻酔薬の薬理効果が乏しいため切開・排膿治療は、ほぼ100%苦痛を伴う
- 4. 切開排膿をしても根治ではないため、二期的に治療が必要(2回治療を要する)
- 5. 切開排膿によって、創部の状態が醜痕になる場合がある
以上の1.〜5.の主な理由により、形成・美容外科を標榜する当院では炎症を起こした状態の粉瘤(=炎症性粉瘤)は、急性期外科的治療(処置及び手術)は行いません。
しかしながら、以下のような例外についても述べておきたいと思います。
ごく稀にですが、炎症性粉瘤が大きく、その感染スピードが早いケースがあります。
全身症状:熱発などの菌血症と呼ばれる状態や内服加療に反応しないことがあります。
そういったケースの場合には感染状態を落ち着かせるために、切開及び排膿治療を行うことがあります。
(その場合には当然ながら痛みを伴う治療となります。)
局所的な痛みを伴う炎症では、浮腫や腫れによって皮膚が盛り上がっていることがあります。
この膨らみは内服・外用などの内科的治療で時間とともに小さくなり、消失することがほとんどです。
炎症性粉瘤の皮膚の下には一過性に膿や肉芽という組織が混在しています。
貯留した膿は炎症による代謝産物です。粉瘤に生じた感染に対抗するために動員された白血球、そして、その死骸である細菌やタンパク質です。切開排膿をしなくても膿は生体内で自然に代謝吸収されるか、もしくは、緊満して膨れ上がった状態のものは『自壊』といって、痛みが伴わず体外に放出されます(ニキビが勝手に潰れて、なくなることを思い出してください)。
炎症性粉瘤は、むやみに切開をして中身を取り出す必要はありません
タイミングを間違うと痛みを伴ったり、余計な切開であるため、開けられた部位の袋が皮膚の下で癒着すると、傷跡が変形したりします。また、粉瘤の袋は切開排膿の時には完全に取り出すことができないため、中途半端に残ることで将来行うべき根治術において、手術の難易度が増して支障が出てきます。
患者さんが痛みを訴えるからといって、第一選択である内科的治療(内服・外用)をスキップして切開することが、かえって将来的な苦痛を伴うことがあるので、不要な治療は避けた方が良いでしょう。
以上により、炎症性粉瘤に対する治療原則は、内服・外用による内科的治療を行うこと。そして、そういった状況においても薬が反応しない場合や進行する感染や全身炎症を伴う場合に限り行うべきだと考えられます。
炎症性粉瘤を発症した事例
痛みも強く、抗生剤・炎症止めなどの抗炎症薬も効果なく、増強するので切開することになった事例です。
【粉瘤】絶対放置してはいけない!
粉瘤の治療・手術法
手術のポイントとして、炎症を起こす前の状態で治療すること、最小限の手術創で確実に袋ごと取り出して再発を予防することが重要で、手術による摘出法として、以下の2種類の治療があります。
- 標準的粉瘤摘出法(従来法)
- くり抜き法(ヘソ抜き法)
詳しくは、エムズクリニックの粉瘤(アテローム)の治療法をご覧ください。
粉瘤 施術事例・画像
おでこの粉瘤 除去
炎症がないうちにしっかりと袋ごと取ります。『袋ごと取る』ことで、再発しない、そして綺麗に取る方法です。
術後1週間前後で抜糸を行い、傷の赤みはありますが、徐々に薄くなっていきます。
おでこの【粉瘤】を小さな傷(キズ)で取りました。
背中の巨大な粉瘤 除去
背中にいっぱい傷があり、粉瘤ができやすい人です。今回の膨らみの部位にも一致して傷がありました。
別の病院で一度手術をしたことがあるようですが、袋を取り切れていなかったため再発し、そして巨大化しました。
エコーでも確認して粉瘤だったので、迷わず手術を行い、癒着を解除し、袋を破らず球体として取り出しました。
また、巨大な【粉瘤】を取りました!
粉瘤の治療 費用と日数の目安
大きさ・部位によって異なりますが、除去費用の目安は以下の通りです。
基本的には、日帰り手術で1日で終了しますが、炎症を引き起こしている場合は経過観察を含めて日数を要します。
露出部 ¥ 5,500 ~ ¥ 15,400 (税込)
非露出部 ¥ 4,400 ~ ¥ 14,300 (税込)
- ※保険3割負担の場合
- ※露出部とは、半袖半ズボンの衣服を着用して衣服で肌が覆われない部位、例えば顔や首、前腕や膝下などの部位を言います。
一方で、非露出部はその反対で衣服で覆われている部位を示します。
- ※費用は、部位や大きさによって変わります。
粉瘤のよくあるご質問
粉瘤の手術は保険がおりますか?
はい、保険3割自己負担、保険適用での手術が可能です。粉瘤の症状を見つけたときは、お早めの受診をオススメします。
まとめ
- 炎症を引き起こしている炎症性粉瘤に対する治療は、内服・外用による内科的治療を行い、薬が反応しない場合や進行する感染や全身炎症を伴う場合は、外科的治療(処置及び手術)を行う。
- デキモノが粉瘤か、脂肪腫か、悪性かどうかなど、判断に迷ったら、自分で潰したりせず、専門医によるカウンセリングをオススメします。